●詐欺被害がひとごとでなくなるとは・・・

 ごく近しい老夫婦が振り込め詐欺の被害に遭いそうになった。

 「遭った」ではなくてよかったのだが、「怪しい電話がかかってきた」とかいうレベルではない。
 実際に ATM の前まで行って、電話で指示を受けながら操作していたのだ。

 幸か不幸か、耳が遠いために相手の指示がよく聞こえず、何度も聞き返しているうちに相手が痺れを切らして電話を切ったという。
 マンガのような話ではある。

 市役所に現に存在する部署を名乗る、いわゆる還付金詐欺であったらしい。

 ショックなのは、もう何度も、「そういう詐欺に遭わないように」という話をしていたということだ。
 夫の方は大企業を部長で退職して子会社の社長をやっていた人。妻の方は専業主婦だが、むしろ夫よりしっかり(というかちゃっかり?)している。

 そういう夫婦が、2人揃って騙されてしまうのである。どちらも「詐欺かも」とは言い出さなかったらしい。
 いくら年を取ったからとはいえ、そんなことになるものなのだろうか。まだぼけてはいない(はずだ)。年を取るというのは恐ろしい。

 夫の方は、「ATM に行ったかて(行ったからといって)、お金を渡すようなことはせえへん」と言っているそうだ。
 耳が遠くなければ、確実に「お金を渡すようなこと」をしていただろうと思う。

 だいたい、お金を受け取るために ATM に出向く必要など絶対にないし、何より、ATM を操作してお金を受け取るなどということは、原理的に不可能である(借りることならできるかもしれないけれど)。

 家人なども、「ATM に行かせて、どうやってお金をだまし取るん?」とか言っている。世事に疎い者の認識というのはその程度なのかと愕然とした。

 その説明をした後、「そもそも ATM を操作してお金を受け取るなどということは、原理的に不可能だ」という話をすると、「えーっ!?、知らんかった」とか言う。

 生涯、全資産は私一人で管理しようと固く誓った。