★調和旋回
上下・左右・傾きの3つをコントロールしなければならない飛行機には、したがって舵も3つある。
その3つをうまく調和させて旋回できると、機体にも体にも変な力がかからず、実に気持ちがいい。
左右のステアリング1つしか舵がないクルマには、とてもできない芸当だ。
だが、バイクのタイヤを替えてから、その調和旋回に近いような感覚を得ることができるようになって、喜んでいる。
車と違い、車体をバンクさせるバイクは、左右と傾きの2つの舵を持っていることになるからだ。
地面から離れるわけにはいかないので、上下の舵はもちろんない。
しかしながら、たとえば見晴らしのいい峠を下っていると、ほんとうに空を飛んで下界を見下ろしながら旋回しているような感覚を味わえる。
登りの峠なら空へ向かって上昇旋回・・・
ただの水平なカーブであっても、コンパスで円を描くようにみごとなニュートラルステアで旋回していくので、飛行機で調和旋回しているような錯覚を覚える。
以前バイクに乗っていたときは、飛行機を操縦したことがなかったためか、そんなふうに感じたことはなかった。
あるいは、バイクやタイヤの性能、そして自分のウデが悪かったためかもしれない。
まあ、ウデは今でも悪いんだろうけれど。
ともあれ、飛行機を操縦しなくなってから味わえなくなっていたあの感覚が甦ってきたのはとても嬉しい。
気になるのは、飛行機の旋回よりも(おそらく)はるかに危険なことである。
もちろん、余裕を持ってゆっくりとしかカーブは曲がらないのだが、それでも、旋回半径を自由に選ぶことはできないし、路面もきれいだとは限らず、周囲は障害物だらけである。
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アメリカで飛行機の免許を取ってすぐのころ、近くの空港の主みたいな女性に報告したときの、「素晴らしいことなのよ、だってあなたは自由を手に入れたんだもの」という言葉が忘れられない。
南カリフォルニアの傾きかけた太陽を浴びていたその姿と、少し芝居がかった祝福の声は今でも鮮明だ。
ということは、私は自由を手放してしまったことになるのか・・・
だが、バイクに乗ることでほんの少し、それがまた戻ってきているのだ。