◆こんなことができるのだ(結局できなかったけれど)

 昨夕、「鹿児島で小型プロペラ機が墜落」(asahi.com)というニュースを読んだ。

 ごく短い記事だったのだが、ちょっと不思議な感じがしたのは、以下のような記述があったからだ。
 「外国人男性が操縦する小型プロペラ機」
 「米ハワイ出身の39歳と話したという」
 「パラシュートが機体から開いていたという目撃情報もある」

 「パラシュートが機体から開いていた」というのが本当なら、おそらくはCirrus(シーラス)社の小型機だろう。私の知る限り、世界で唯一、緊急時に飛行機ごとパラシュートで降りられる飛行機を製作しているメーカーである。

 ただ、記事の書き方だと、パイロットは日本在住の外国人ではなさそうだが、まさか Cirrus の小型機でハワイから九州まで飛んでくるわけもない。

  後でわかったのだが、おそらく操縦士の怪我が軽かったからだろう、asahi.com には続報がない。

 ところが、今日になって、「墜落:小型機、操縦士けが 強風影響か 鹿児島」(mainichi.jp)という記事が出た。
 それによると、
 「米国バージニア州在住の男性パイロット(39)」
 「小型飛行機はプロペラ機で1人乗り」
 「サイパンを出発し、韓国に向かう途中」
だったという。

 えええええっっっ !?

 第一、Cirrus に1人乗りの飛行機なんてあったっけ? それにまさか、サイパンから韓国??
 そんな距離を飛べるような飛行機であるはずがない。

 ネットで調べてみると、機体はやはり Cirrus の SR20。単発のプロペラ機である。高性能とはいえ、私が操縦していたセスナ172と大差ない。
 ところが、この男性は何と、アメリカのカリフォルニア州からハワイ・キリバスミクロネシアサイパンを経由してソウルまで行く途中だったらしい。

 これまで飛んできた距離を思えば、ゴールはすぐそこだったのに・・・

 それにしても、カリフォルニア〜ハワイとか、ハワイ〜キリバスとか、サイパン〜ソウルとか、とても Cirrus が飛べるような距離ではない。燃料満タンでもその半分も持たないはずである。
 だから、機内にも燃料を満載できるように改造したせいで「1人乗り」なのだ。本来は4〜5人乗りだそうである(cirrusaircraft.com)。

 いやしかし、ものすごい冒険家だなあ・・・と思ったら、何のことはない、フェリーフライトだったらしい。
 飛行機を分解して船で運んだりすると時間もお金もかかるため、自力で飛んでいくのである。たぶん、韓国のお金持ちがアメリカの機体を買ったのだろうと思う。

 いずれにせよ、小型の単発プロペラ機で、太平洋を横断してアメリカから韓国まで来ることは可能なのだ(まあ、実際には不可能だったわけだけれど)。
 改造セスナに乗って飛べば、私にだってできるはずだ(理論的には)。
 私なら台風の影響で風が強いときに飛ばしたりしないから、きっと成功していたに違いない(笑)

 それにしても、改造やら、その後の耐空証明(飛んでいいという許可)、さらには国際的な航空法規のことなど考えると、とてもやってみようという気にならない。
 いや、それ以上に、飛行中の食事や排泄などはどうしてたんだろう?

 素直にバラして船便で送るより、そんなことを全部クリアする方がトータルのコストは安いのだろうか(結局高くついたけど)。

 仮に安いとしても、こんなことを引き受けるパイロットもパイロットだ。軽い怪我ですんだらしいのがほんとに幸いだった。
 さすが、世界に誇る Cirrus Airframe Parachute System™ (CAPS)である。