◆驚きの気圧計(iPhone 6 Plus)

 小型飛行機を飛ばしていたころ、気圧高度計にはずいぶんお世話になった。

 飛ぶ前に、管制塔から教えてもらった数値に基づいてまず計器を調整する。すると、高度計の指し示す数値と滑走路の標高とがだいたい一致する。

 上空へ上がれば気圧が下がるので、それに伴って高度計の数値は上がり、自分が今どれくらいの高さを飛んでいるのかがわかる仕組みになっている。たとえば「高度6000フィート(約1830m)を巡航する」などというときは、この高度計が基準となる。

 着陸するときも同様に、再度計器を調整して滑走路からの高さの目安とする。だが、たとえば500フィート(約150m)を切ると、もう高度計なんか見ていない。
 滑走路がどういう見え方をしているかが重要だし、接地するときにはなるべく遠くの方を見なければならないからだが、高度計の数値を信用しすぎることができないからでもある。
 数値を信用して「あと10フィート(約3m)」とかやっていても、1mでも誤差があれば、いつまでも着陸できないか、地面に激突するかのどちらかになってしまう。そもそも、アナログ表示の時計のような計器で、最小目盛りは20フィートとか50フィート刻みなのだ(有効数字的にはその1/10まで読めるということになるのだろうけれど)。
 電波高度計なら信用できるのだろうが、安物の小型機にはそんなものはついていない。

 私にとって、小型飛行機の気圧高度計というのは、せいぜい25フィート(約8m)単位で高度を知るためのものであった。ベテランでも、10フィートくらいはまあ誤差のうちではないだろうか。
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 前置きが長くなってしまった・・・

 iPhone 6 Plus には、気圧計がついている。当初は「対応するアプリがない」とかいうことで、「何じゃそれは」とか思っていたのだが、無料の気圧計(ずばりBarometerという名前)が出たというので早速使ってみた。

 これがすごい。

 いや、アプリとしてすごいのかどうかはわからないのだが、「今いる地点を基準にしてどのくらい上下したか」が実に正確にわかるのだ。
 職場の3階から2階に降りると、だいたい -3.5mと表示される。1階まで降りると、-7.0m。ほぼ正しい。

 つまり、1階と2階とで気圧が違い、私たちは2階にいるときの方がより低い気圧の中にいる、すなわち、より薄い空気を吸っていることになる。
 その、人間にはまったく感じられない差を、気圧計はきちんと測定し、それを標高差として表示しているのだ。

 iPhone 6 の宣伝で、「気圧計などを使って階段の上り下りまで判断し、どのくらい運動したかを把握云々」というものがあった。
 それを見ながら、「階段の上り下り?? そんなあほな」みたいに思っていたのだが、実際、階段を3段も降りると、-0.5mと表示され、また戻ってくると0.0mになる(今、実際に家の中で試した)。

 まさか、こんな精度だとは思っていなかったので、いや、それ以前に、同じ建物の1階と2階とで(ましてや階段3段くらいで)、そんなに気圧が変わるとは思っていなかったので、これにはほとんど驚愕した。

 もちろん、基準となる気圧を管制塔が教えてくれるわけではないので、このアプリだけでは直接標高を知ることはできない。だが、自分が基準点からどれだけ高さを変えたかは、おそらく20〜30cmくらいの精度で知ることができる(表示は10cm刻み)。
 すごい。

 もっとも、当たり前のことだが、大気圧は常に変化しているので、少し時間が経ってしまうと、自身の上下移動による気圧差よりも全体の気圧変化の方が大きくなってしまう可能性がある。
 今日は快晴で大気が安定していたので、たとえば山に登ったりすると、かなり正確な高度差が得られただろうが、天気が変わったりする日ならそうもいかないだろう。
 ただ、そのことで逆に、たとえば山の標高は1000mのはずなのに、高度が1100mを示していれば、つまりは気圧が下がった(天気が悪くなる)ことを知るなどということも可能だ。

 いずれにせよ、これからさまざまなアプリが出てくるに違いない。管制塔が出しているような調整値を取得して、常に正しい標高を表示するようなアプリを開発するのもそれほど難しくないはずだ。
(後記(20141223):バージョンアップで、上記が可能になりました。自動的に調整値を取得して正しい標高を表示します。誤差は数メートル程度でしょうか。ただ、当初の、「現在いるところから相対的に +何m・ー何m」を一発で知る機能はなくなりました。両方切り替えられるといいと思うのですが。)

 使い方にもさまざまなアイディアが出てくるだろう。ちょっと楽しみである。