■蜂に噛まれる

 関西では多くの人が「蚊に噛まれた」という言い方をする。

 わたしもふつうそういうのだが、関東の人に「蚊は噛まないよ。刺すんだよ」といって笑われたことがある。当のご本人は、「蚊に食われた」とよくおっしゃるのだが。

 英語でもよく、mosquito bite という言い方をする。やはり蚊は噛むというイメージがあるのだろう。
 他の言語のことは知らないが、おそらくは似たような表現をする言語も多いはずだ。べつに関西弁が変なわけではない。
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 だが、関西でも蜂にはふつう「刺された」という。これは関東でも同じだろう。
 英語でも bee や wasp や hornet なんかには sting を使うのがふつうだろうから、やっぱり、「刺された」である。

 しかしながら、今日はミツバチに噛まれた。

 最初は息子だった。額を蜂に噛まれたから見てくれという。すごく痛かったとも。

 「刺されたんちゃうんか?」と聞いても、「噛まれた」という。
 刺されるのと噛まれるのって違うのがわかるのだろうか。額だから、自分では見られない。

 半信半疑で額を検分しても、特にどうにもなっていない。近くには人生の先輩方がずらりといらしたのだが、どなたも「蜂に噛まれるというのは聞いたことがない」とおっしゃる。

 信と疑の割合が、後者に大きく傾く。

 ところが、今度は私に蜂が止まった。しかも喉に。見ていた方々の話によると、ミツバチだそうである。

 蜂が周囲に来たときの鉄則はじっとしていることだと、自然を愛する方々からたたき込まれている。実際、そのうちのお一人は、スズメバチが鼻の頭に止まったときにすら、じっと動じなかった。
 喉にミツバチが止まった私も、師の教えにしたがって、じっと我慢する。

 ところが、そいつが噛むのである。

 「あ、今噛まれた。また噛まれた」と実況中継しながら、あくまでも先達の教えにしたがって動かない。しかし、5回ほど噛まれると、さすがにもう、何とかしたくなってきた。
 息子の痛がりようはいつものように少々大袈裟だとは思うが、やっぱりミツバチの大顎に挟まれて痛くないわけがない。

 鏡をお借りして中指ではじき飛ばそうかと思ったが、カメラレンズの袋?を貸していただいたので、それではたくことにした。
 戻ってきて復讐されても、スズメバチじゃないんだから大丈夫だろうと判断した。
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 蜂は噛むのである。

 そして、刺されたか噛まれたかは、まったく見えなくてもわかる。

 息子よ、疑って悪かった。