■母はアル中?
自然を愛する人生の先輩方と喫茶店で語り合っているとき、私がまったく酒を飲めないという話になった。
「奥さんも飲みはらへんの?」
「ええ、飲めないことはないんですが、ほとんど飲みません」
などと言っていると、横から息子が、
「あの人、めっちゃ酒好(す)きやん」
と口を挟んだ。
「あの人」というのは、むろん家人のことである。マザコンのくせに、一応、照れがあるのだ。
瞬間、何を言っているのかわからなかった。
私から見ると、間違いなくほとんど飲まない。もしかして、私に隠れて息子の前では飲んだくれている・・・というようなこともありえない。
家人が飲む酒というのは、週に2回ほど、夕食時にワインを 50ml ぐらいである。
外食時には一切飲まない。
ただ、この夏に旧東ヨーロッパに行ったときは、水よりビールの方が安かったりしたので、数回はグラス一杯飲んだかもしれない。それだって、結婚以来初めてのことである。
たしかに、ワインを飲むときには「ああ、おいしい」とか言っている。
しかし、週に2回、50ml 飲む大人を「めっちゃ酒好き」というだろうか。
数秒の後には理解した。
息子は、ほんとうに酒好きな人とか酒飲みとかを見たことがないのだ。
家人の両親と弟もあまり飲まない方だし、私の母親と兄弟2人はまったく飲めない。
私の父親だけがかろうじて酒は好きだが、それだって、ビールの小瓶で十分というレベルである。わりと最近知ったのだが、会社で営業の仕事に回されるまでは、もともとまったく飲めなかったそうだ。
そして、だれひとり、酔ったところを息子に見せていない。
そういう大人を見て育つと、「おいしい」と言ってたまにワインを飲む母親が「めっちゃ酒好き」になってしまうのだ。
環境とか文化とか教育というのは、実に恐ろしい。
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周囲への誤解を解くべく、息子に「あんなんは酒が好きやとは言わへん。お前は、酒好きとか酒飲みとかがどんな人のことを言うのかわかってへんねん」と言ったのだが、果たして先輩方にはどう聞こえただろうか。
アル中の妻を隠そうとするけなげな夫?
いえ、ほんとにほとんど飲まないんですって。別に飲んでもいいんですけど。