★Over the Pacific vol. 4 グローバリゼーション・・・

 ロストバゲッジの件では、ユナイテッドに3〜4回電話したと思う。そのたびに「もう配達に出ました」みたいな対応だったのは以前書いたとおりだ。

 何人かから、「とにかく強く主張しなければいけない」というアドバイスを受けたので、最後の時は意識してそうしてみた。
 「もっと何かできることがあるはずだ」「2度3度と配達係に連絡してくれ」「忍耐も限界だ」「ほんとに怒ってるんだぞ」とかいうのと同時に、「とにかく何とかして助けてくださいよ。本当に困ってるんですから」みたいなのも混ぜながらがんばってみた。相手は相変わらずのらりくらりである。

 そんな中、「とにかく今すぐここに(right now, right here)バッグを持ってきてくれ」と言ってみたところ、「そうしたくてもできないんです。私はフィリピンにいるんですから」と言われたのにはがくっと来た。シアトル空港にある荷物をダウンタウンのホテルに届けてもらうために、わざわざフィリピンにいる女の子(声から判断)と一生懸命話しているのだ。
 「いやもちろん、君に個人的に運んでくれと言ってるわけじゃない。ユナイテッドとして、きちんと責任のある対応をしてくれと言っているのだ」とかなんとか言っても、なんかもう力が抜けてしまって話にならない。

 彼女が持っている情報は、私がホテルの部屋からネットで見られる情報と同じなのだ。そこには、昨夜のうちに届けられるはずだったことが空しく書かれているばかりである。
 この情報で足りないときは電話をかけてくれと書いてあるのに、かけた先でもそれ以上の情報を持っているわけではないし、具体的に何かしてくれるわけでもない。「だって、フィリピンにいるんですから」

 配達を担当する契約会社?の電話番号を知っているらしいことが彼女の唯一の武器だが、嘘かまことか、そこに電話しても出ないという。以前に電話したときの男性も、配達係から20分以内に折り返し電話させると言っていたが、12時間経っても電話など来ず、結局荷物が着いてしまった。

 おそらくは低賃金のコールセンターで働かされているフィリピンの女の子のことを思うと、もはや怒っているふりをする気力も失せてしまった。「いやもちろん、君個人の責任じゃないことはよくわかってるんですよ。怒ったりしてごめんなさいね」と言って電話を切る。先方も「いえ、お気持ちはよくわかりますしお怒りもごもっともです」みたいな応対をする。マニュアルどおりなんだろうが、嫌な役目を引き受けさせられている無力な異国の女の子をいじめていたみたいで、なんだか本当に申し訳なくなってくる。

 おそらく彼女は、世界中から同じような電話を毎日受け続けているはずだ。それが彼女の仕事・・・

 大企業がコールセンターをフィリピンやインドなどに置いているという話は聞いていた。日本企業の場合は中国に置いたりもしているようだ。だが、シアトルの荷物のことは、シアトルにいるだれかが対応するように改めることはできないのだろうか。せめて、西海岸にいるだれかとか。

 物理的に存在する場所は、仕事の責任感にも影響する。まあ、すぐ横にいてもコーヒーをこぼして気づかないようなアテンダントもいるんだけれど。