●黒毛和牛で焼き肉

 結婚後、実家に行くのはせいぜい年に3〜4回とかだ。

 私の実家は車で1時間ちょっと、家人の実家は車で数分の距離にあっても、である。

 だが、義母が入院していたこともあり、最近は比較的頻繁に病院やら家人の実家やらに足を運んでいる。

 先日は退院祝いを兼ねて夕食をともにした。そして今日もまた。この週末、家人が珍しく家にいるのだ。

 メニューは息子の希望で焼き肉である。
 放射能放射能と騒いでいるくせに、このタイミングでそんなことをいうのは不思議だったが、私が寝ている間に出かけてしまっていたので、真意を聞くことはできなかった。
 ___

 昼食後、買い物に出かける。

 商店街の人出が、いつもよりかなり少ないように感じた。どうしてだろうと考えていて、
・一般的な給料日の直前であること
・先週の3連休で散財した人が多いこと
・夏休み最初の週末であること
などから、買い物をしている人が少ないのではないかという結論に達した。

 ところが、大事なことを忘れていた。ここにこの時間帯(2時半ごろか)に買い物に来たことがほとんどないのだ。もしかすると、時間が一番の原因だったのかもしれない。

 ともかく・・・

 いつもの肉屋に行くと、ご主人がいらっしゃらないように見えた。いつ行っても必ず、同じ場所で肉を捌いているご主人だ。
 ところが、肉を注文し始めると、店の片隅の椅子に座って休んでいらっしゃった?のがわかった。初めて見る姿である。他に客はいない。

 おそらくは暇だったのだろう。それ以外に考えられない。

 もともと商店街自体に客は少なかったし、セシウム騒ぎで国産牛の消費が極端に落ちている昨今であってみれば、当然というか仕方のないことなのだろうと思う。

 話題にしようかとも思ったが、黙っていつものように肉を買うのが一番いいように思ってそうした。

 いつも特別に注文してブロックから切り出してもらうカレー肉を頼まなかったので、ご主人が「今日はカレー肉はよろしいですか」と聞いてくれた。だが、今日は焼き肉用の肉を仕入れに来ただけで、前回買ったカレー肉の残りはまだたっぷり冷凍庫に眠っている。
 毎回、忙しいときに切り出しを頼んでいるのに、今日みたいに余裕のあるときに頼まないのは何だかすごく申し訳なく感じてしまった。

 それに、いつも買う肉を買わないので、セシウムを気にして避けていると思われないだろうかと一瞬思った。が、「これ、黒毛和牛ですよね」と確認して買ってるんだから、そんなことはないだろう。
 産地を聞いたりもしなかった。

 若くて綺麗な店員が(そういえば、今日はぜんぶで3人しかいなかった。ご主人と息子さんとこの女性。聞いたことはないが、もしかして娘さんなのだろうか)、「たくさんお買い上げいただいてありがとうございます」と言ってくれた。
 購入金額はいつもだいたい同じぐらいで、ときどきそう言ってくれることもあるのだが、気のせいか、今日は殊の外、心からの言葉であるように聞こえた。
 ___

 以前行きつけにしていた肉屋は、狂牛病牛海綿状脳症BSE騒ぎに耐えきれず、潰れた。長年同じ場所で家族営業していたのに。

 今の肉屋に同じ轍を踏んでもらいたくはない。肉食にはどちらかというと「理念的には」反対だし、肉はそれほど食べないんだけれど、ここしばらくは肉の消費を増やしてみようかと思う。

 自分にできるのはたぶんそれぐらいしかない。

 You can't save the whole world, don't even try...