●瑞穂の国が・・・

 はるか青森まで車を走らせながら、「車を運転している時は新幹線に乗っている時ほどには哲学者になれないのかなあ」と考えていた。

 新幹線と違い、ひたすらぼーっと車窓の景色を眺めているわけにはいかないのだから、それもまあ当然である。

 むつ市(ぜひ地図で位置をご確認ください)から合計9時間近くかけて大阪に帰る間は、ほとんど何もせずに窓外の風景を眺めていた(美少女に気を取られていた時間を除く(笑))。
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 今回は、いつもとは違う感懐を得た。想念を惑わす美少女が消え、新幹線に乗ってからずっと外を見ていると、青森から東京まで(その距離!)、東京から大阪まで、変わらず続いているのは、やはり田園風景だった。

 少し寄り道になるが、本州は世界で何番目に大きい島かご存知だろうか。

 大陸は除くので、一番はグリーンランド、その後、ニューギニア島ボルネオ島と続くのだが、なんと7番目に日本の本州が来るのである。

 しかも、6番目までの島々に、本州ほど人間によって維持管理されているものはない。グリーンランドと5位のバフィン島は、ほとんど人を寄せ付けない大氷原や氷河に覆われた不毛の島であり、残りの4つは(乱暴に言ってしまえば)熱帯雨林のジャングルである。

 小学校以来、日本の国土の75%は山地だとか、河川の勾配が急だとか教えられてきた。
 それはたぶん、その通りなのだろう。

 だが一方で、その残りの平地が(いや、山地の一部さえも)これほどまでに丁寧に維持管理されてきたことに、もう少し思いを致してもいいのではないだろうか。
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 青森から東京を経て大阪まで、ずっと田園風景が続いていたと言った。それはもちろん、新幹線を建設しやすい地形のところを走ってきたからには違いない。

 それでも、今なお耕作放棄地がほとんど見られず、綺麗に刈り取られた後にひこばえが生えて青々とした田や、田おこしされて豊饒な土が黒々と見える田、そして、刈り取られた直後の褐色の田、そしてときには一面に咲くコスモスの彩りなど、とにかく、織りなされるパッチワークが見事だった。

 ときおり、もみ殻を焼く煙もそこここで上がっている。
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 先日ニュースを見ていると、「日本の農業はあと5年で壊滅する」という発言を耳にした。「まさか」と思う一方で、「2010年世界農林業センサス結果の概要(暫定値)」によると、農業の衰退と「老衰」は著しく、わずか5年前と比べてさえ、日本の農業人口は2割以上減っていることがわかる。

 従事者の平均年齢は綺麗な一次関数を描いて高齢化しており、2010年で65.8歳。どんな会社でも定年を超えているような年齢が「平均」なのである。

 5年は大袈裟かもしれないが、このまま行けば10年20年のうちには本当に「壊滅」するのではないだろうか・・・
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 そんな折、前原外務(前:国土交通)大臣が、「第一次産業の占める割合は日本のGDPのわずか1.5%だ。その1.5%を守るために残りの98.5%が犠牲になっている」という趣旨の発言をした。
 数字が正しければ、林業水産業を含めても、わずか1.5%なのだろう。

 だが、その1.5%をないがしろにした時、「交通」はどうなるのか知らないが、「国土」は確実に荒廃する。そして、今はまだある日本の米も、私たちの口には入らなくなるだろう。

 国土は荒廃してもいいし、食糧は購入すればいいのだろうか。

 外国がいつまでも機嫌良く食糧を売ってくれるとは限らないし、仮に売ってくれるとしても、荒廃・崩壊した国土は、果たして今後もそれを買うだけのお金を生み出し続けてくれるのだろうか・・・
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 何時間も何時間も続く田園風景を眺めながら、今ならぎりぎり、まだ間に合うかもしれないと思った。

 国際経済やら政治やら、難しいことはよくわからないけれど、考えもつかないような思い切った政策を断行し、国土や農業を守るべきである。

 今ならまだ間に合う。

 しかし一方で、日本の政治を見ていると、もはや間に合わないのは確実だとも考えてしまうのだった。