■魔境カフェ

 年末あたりから息子が「岬町に行きたい岬町に行きたい」と繰り返すので、行ってみることにした。

 なぜ岬町なのかはいくら聞いても要領を得ないが、大阪の最南端であることと、「岬」がついているのが気に入ったらしい。あ、♪「岬めぐり」の曲が好きなことも影響しているのだろう。

 「岬町なんか行っても何もないで」(すみません)と言っても、「何もないからええねん」という。

 岬町に着いたものの、案の定行くところはなく、せっかく来たんだからと「岬」を目指すことにする。
 が、ナビを頼りに進むと行き止まりの府立水産試験場に迷い込んでしまい、ままよとそこでトビやらセグロカモメやらをウォッチングする。

 そこを出て「大阪岬マリーナ」の方に進むと、マリーナを過ぎてから狭くて進めなくなりそうな道になり、Uターンして引き返す。
 暖かい日で、釣り船が帰ってくると、大漁だったらしい大勢の釣り人たちが笑顔である。

Img_5999_32 もう少し走って府県境あたりの道端に車を駐め、海岸に降りて今度はハクセキレイなどをウォッチング。遠く神戸や須磨、明石海峡大橋まで見渡せるほど視程が良かった。

 岬町はそれだけで、和歌山市の加太方面へ向かう。家を出るのが遅かったので、もう遅めの昼食の時間だ。
 ネットで調べたカフェへ。

 電話番号をナビに入れると場所はすぐにわかったが、あらかじめ調べておいたとおり、新興住宅地の中にある。
 実際に行ってみると、「通りがかる」などということの絶対ない場所であった。

 南海加太駅すぐ西の信号のある交差点を南へ行くのだが、向こうからバイクでも来ようものならどうしようもなくなる路地である。100m以上向こうに車が見えてちょっと緊張したが、そのことをよくご存知の方のようで、大人しくそこで待っていて下さった。
 その後、川を渡ってごくまばらな住宅地を抜けると、ほんの数分だが何もない道がしばらく続く。そして、このまま何もない山に迷い込んでいくのかと思っていると、忽然と瀟洒な住宅地が現れる。

 こんなところに・・・というインパクト十分な、ミニミニ千里(泉北)ニュータウンである。

 その外れ、前を通りすぎるとほどなく行き止まりになる高台にカフェがある。坂を上っていくと外観は見えるのだが、回り込んで正面まで行かなければそこがカフェだとはわからない。正面まで行っても、ごく控えめな看板があるばかりである。
 ここを目指して来なければ、通る車とて絶無の、住宅地デッドエンド手前だ。

Dsc07545_vga 幸い、営業しているようだ。出迎えはヤギの鳴き声。

 カフェとはいうものの、ランチに来た。食べたのはスパゲティポモドーロ、ビーフカレー、自家製ピザ。

 パスタとカレーとピザの店と聞いて侮ってはいけない。どれも水準以上のおいしさであるばかりか、テラスから見下ろす絶景はかなりのものである。幸い、今日は寒くなかったのでテラスでいただいた。
 食後にこれも自家製のケーキとコーヒー。豆の焙煎もここでやっていらっしゃるそうだ。
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 地図によると、淡嶋神社方面にも降りられるはずだし、ナビもその道を示す。しかし、「災害時以外通行止め」とかで、元来た道を戻るしかないらしい。念のため、ウォーキングをしていらした地元の方に聞いても同じ答。

 ということは、この住宅地に住む人々は、あの絶対にすれ違いのできない道が下界への唯一の窓口なのか。まさか、そんなことは信じられない・・・ などと言いながら、もと来た道を戻っていく。

 その時点で、今日のエントリの題名が決定した。「魔境カフェ」である。

 ナビによると、川沿いの道を西へ進めば海へ出られそうなので、そっちへ行ってみることにした。

 ところが、道はどんどん狭くなり、とうとう歩行者とすらすれ違えない幅になる。その道が車両通行禁止でないどころか、一方通行ですらないことが信じられない。
 でもまあ、何とか通れそうなので、念のために家人を降ろして左右を見てもらいながらおそるおそる進み始めた。
 すると、向こうから自転車。とてもじゃないがすれ違えない。仕方なくバックする。そこに止まって、また来たバイクをやり過ごす。そうこうしていると、また次のバイクが来る・・・

 これではとても進めないので、諦めてバックで戻ることにした。幸い、ほどなく親切な人が現れて住宅の敷地に入れていただいてUターンし、道を教えていただいて事なきを得た。
 その親切な人がその住宅の住人ではないことを後で知って驚いた。勝手に門扉を開けて私の車を招じ入れたのである。
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Img_6105_32 その後、淡嶋神社と海沿いを車窓観光し、とって返して近くの森林公園に向かう。もちろん鳥見が目的だが、税金の無駄遣いの見本のような場所であった。一見の価値がある。

 だが、そこにある小さな陸軍墓地の奥で、ツミらしきタカをほんの3メートルほどの距離で見たのは収穫だった。左から右へ木々の間を音もなく滑空してきて、木に止まるかと思うと私に気づいたかのように身を翻して遠ざかっていった。
 あまりのことにカメラを向けることすらできなかったのが心残りである。

 無理矢理墓地の奥まで上がってフェンスの向こうを見ると、妙な平原が広がっている。後で見つけた場違いな片側2車線の道とあわせ、そこが新興住宅地候補地であることがわかった。おそらくはこれから数十年、手つかずで放っておかれるのではないかという気がする。

 森林公園の下の紅葉谷を歩いて登り、暗くなりそうなので引き返している途中、足を滑らせて派手に転倒した。

 肩にかけていた一番高価な双眼鏡が「ゴンッ」と不気味な音を立てて地面にぶつかり、カメラも落とした。
 間違いなく光軸がずれた、下手をするとレンズを割った・・・と思いながらおそるおそる双眼鏡を覗くと、何と正常である。不幸中の幸いというのは、こういうことを言うのだろう。
 土埃にまみれたカメラも、快調な連射音を奏でる。
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Dsc07543_vga 何度目かの、できの悪い中学生の日記みたいになってしまいました。なぜか、こんなふうにだらだらと書きたい日でした。
 最後までお読み下さった方の忍耐には感謝申し上げますとともに、ぜひ「魔境カフェ」(店名はアルゴ)へお出かけになりますよう、お勧め申し上げます。

(大袈裟に書きましたが、同じ道を行って戻る分にはそれほどの困難はありません。小綺麗な新興住宅地の中にあるログハウスで、居心地のいいカフェです。)