■あの Vallejo 市が・・・

 (承前)

 そういえば、中島みゆきの歌に、

♪新聞に載るほど悪いこともなく
♪賞状をもらうほど偉いこともなく
♪そしてゆっくりと1年は過ぎてゆく

というのがあった。やっぱりここでも、「新聞に載る」=「悪いこと」なのだ。

 私もこの歌詞の最初の2行にはあてはまる。ただし、1年が過ぎてゆくスピードはけっこう早いような気がする。

 「賞状」をもらったのは子どもの時だけだ。それも多くはないし、習字の「佳作」とか、どうでもいいようなものばかりである。
 しかしながら、わが生涯に燦然と輝く ^^; 賞をもらったことがある。

 「Vallejo 市長賞」だ。確か賞状はなく、小さなトロフィーだったけれど。

 ニューヨークやロサンゼルスではなく、デンバーやメンフィスですらない。Vallejo 市? それどこ? というようなものである。

 それでも、昔の田舎の少年にとっては、あの憧れのアメリカの市長の名を冠した賞をもらうというのは、それほど嬉しくはないにせよ、まだ見ぬ海外に思いを馳せさせるできごとではあった。

 当時はまだ、海外旅行なんてたぶん一生縁がないと思っていた・・・

 Vallejo 市長が女性だというのにも驚いた。それまで、日本のすべての歴代都道府県知事は男性だったし(初の女性知事が誕生するのは2000年を迎えてからだ)、おそらくは市町村長にしてもそうだったのではないか。

 女性市長。子ども心にも、さすがアメリカ、と思ったものである。
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 さて、その後、Vallejo 市についてはほとんどどんな場面でも耳にすることはなく、いつかそんな街があることさえ忘れていた。アメリカには3度行ったと思うが、その存在を思い出すことさえなく、したがって、ついでにちょっと訪問してみようかなと思いつくことすらなかった。

 その街がテレビのニュースになっていたので驚いた。その理由はなんと「財政破綻」。

 何でも、破産した自治体は全米で初めてなのだそうだ。

 現在、市のウェブサイトのトップは「Bankruptcy Information」(破産に関する情報)である。
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 なぜ今まで、Vallejo 市と書いてきたかというと、日本語でどう読み、どう表記すればいいのかすら定かではないからである。

 トロフィーには確か、バレオー市長賞とあった。
 賞の関係者は、バレホ市と発音していた。
 破綻報道では、バレーオ市が目につく。バレーホも多い。
 現地では、バレヨと発音する人も多いらしい。

 もちろん、そのそれぞれに、ヴァレホとかヴァレーオとか、「バ」を「ヴァ」に変えた表記も存在する。

 これほど表記が揺れているのは、もちろん、Vallejo 市がそれほどまでに無名だということである。

 アメリカ西海岸、カリフォルニア州北部にある(らしい)人口12万人ほどの無名の市。その市長の名を冠する賞を少年のころにもらった男がここにいて、その市がやっとちょっとだけ有名になったと思ったら、その理由は「破産」・・・

 とても縁起がいいとは言えない。

 でも、こんな目立たないニュースをたまたま知ったのも何かの縁かもしれない。今度西海岸に行く機会があったら、ちょっと寄ってみようかとも思う。