●夏炉冬扇
これから書くこととタイトルとがずれているような気もするのだが、こういうときにでも使わないと、まったく無駄に言葉を覚えているだけのような気がするので使ってみた。
もしかしたら現実にこんな言葉を使うのは初めてかもしれない。それはともかく・・・
リビングに、まだ扇風機が鎮座している。
片付けなければと思いつつ、どんどん冬が近づいてくる。もしかするともう冬かもしれないし、このままだと12月に突入するのは間違いなさそうだ。
冬扇である(「とうせん」だけだと変換できなかった)。
何年前かの秋に、「まだ扇風機を片付けていない」という話をすると(毎年の恒例なのかも)、鳥見仲間のお姉様が「うちはもうストーブ出したわ」とおっしゃるので、「ええ? もう出されたんですか? さすがにストーブはまだ要らないでしょう」と申し上げたところ、「何言うてんのん。ストーブ[を]出さな[いと]、扇風機[を]片付けるとこ[ろ]がないねやんか」と言われて妙に納得したのだが、要らないストーブを出してまで扇風機を片付けたいという季節感重視(というか整頓好き?)にはちょっと感心した。
今年はもう冬も近いので、うちもストーブは出した。それは必要だからで、必要なことはいちおうやるのである。だが、扇風機は別に片付けなくても、邪魔になる以外の支障がないので、一段ハードルが高い。片付け前には掃除もせねばならないし。
扇風機を片付けられないほど忙しいわけではない。というか、世間の会社勤めの人たちとは比べるのも申し訳ないくらいだと思う。
それでもやっぱり扇風機が片付かないのは、どこか余裕がないからなのだろう。
食器を洗ったり洗濯物を畳んだり掃除をしたり・・・は日常的にやっている。というより、やらざるを得ない。
やりたくもなく、やらなくても何とかなるようなことができるような生活が、精神的に余裕があるということなんだなあと思う。
●上海瞥見(特別編 番外)
「上海瞥見」とは関係ないのだが、帰国後日をおかずして読んだ新聞記事に驚かされた話を番外編として。
___
北京オリンピックにあわせて中国の新幹線が開通し、北京と天津(わずか120km)を結んだことは多くの人が知っているだろう。
だが、その後の情報はと言えば、事故を起こして車両を埋めた・・・くらいのことではないだろうか。少なくとも私はそうであった。
ところが、知らないうちに新幹線開通ラッシュが続いており、現在では高速鉄道網と言えるほどのネットワークが既にできあがっているのである。2008年の最初の開業からたった10年足らずで・・・
記事(2017.11.15)によると、中国の高速鉄道の営業キロは2016年末で2万2千キロにも及び、これは、全世界の高速鉄道の2/3を占めるという。その9年前にはゼロだったのに。
しかも、2020年に3万キロ、2025年に3万8千キロまで延長する予定だというのだが、実績を知らなければ一笑に付したくなるような数字だ。
なにしろ、東京オリンピックにあわせて開通した日本の新幹線が、その後50数年をかけて築いてきたネットワークが、たった3千キロに満たないのだから。
環境アセスメントや土地収用などに手間暇がかからないことや、国土自体が広大なことを考えても、10年かからずに2万2千キロというのはやはり驚異的だ。
日本に限らず他のどんな国だって、こんなことは夢にも考えられないだろう。
営業速度が 350km/h というのも、世界一である。
___
中国の新幹線技術は、もちろん、日本やフランスやドイツのものをもとにしている。また、「死亡事故ゼロ」をうたう日本の新幹線と違い、少なくとも一度は大事故を起こしている。
しかし、これほど短期間でこれほどの高速鉄道網を築き、ほとんど事故もなく現実に日々運用しているのは、素直に敬服に値する。
中国は明らかに問題の多い国だ。
政府はもちろんそうだが、その政府自身が認めているように、国民にも「非文明行為」(マナー違反)が日本以上に見られる。
健全な批判をするならまだいいのだが、日本のマスコミ報道やネット世論を見ていると、中国の悪いところをあげつらって溜飲を下げるかのような論調も目立つ。
あるいは、今回の高速鉄道網の記事もそうだったのだが、先方の偉業を記事にしながら、なんだか「上から目線」であったりもする(それは、かつて(今もか)欧米が日本を見ていた視線とも重なる)。
そういう報道を浴びてきた私自身、知らず知らずのうちにそういう見方に感染していたのかもしれない。だからこそ、初めて触れた現実の中国のすごさに驚くのだ。
長大な橋、広大な空港、リニアモーターカー、あらゆることの機械化・電子化、高速鉄道網・・・ 中国はもはや、そういった分野で世界の先頭を走りつつある。
そうそう、広州モーターショーを報じた朝日新聞の記事(2017.11.18)の見出しには
「新エネ車 先を行く中国」とあり、リードには
「出遅れていたトヨタ自動車」とある。記事には、トヨタ・日産・ホンダなど日本メーカー各社が
「中国メーカーからは、引き離されている感が否めない」とまで書いてある。
自動車で中国に引き離されている???
いくら電気自動車の話に限るとはいえ、それが現実なのである。
欠点をあげつらって溜飲を下げている場合ではない。
●上海瞥見(特別編 その1)
上空から中国を見下ろしたことは何度かある。だが、高高度を飛行中のことで、感嘆するようなものは見つけられなかった。
今回、上海の浦東空港に着陸しようとしている機内から目にした、中国との初めての出会いは、衝撃的なものだった。
「何だあれは!?」というような、この世のものとは思えない海上橋が窓から見えたのである。
最初、とても現実の存在とは思えず、何かの錯覚かと思ったほどだ。
ものすごく長大な橋が、優美な曲線を描きながら海上をえんえんと続いている。いったい、どことどこを結んでいるのかもわからない。
そもそも、上海のすぐ東には海しかないはずなのに、いったいどこに続く橋なんだろう?
調べると、橋の先には小島がいくつかあるだけだ。何のためにあんな橋を架けたのか・・・
どうやら、そこに港があって、物流拠点となっているらしいのはわかったのだが、だとしても、どうして大陸の沿岸に港を作らないのか。
そしてたとえば、沿岸は遠浅で港に適さないのだとすると、では今世紀に入ってこの橋が完成するまでは、いったいどうやって大量の海上輸送をまかなっていたのか。
まあしかし、それすらどうでもよい。
この「東海大橋」の長さは33km近く、海上部分だけでも25kmに及ぶというのである。
ちなみに、日本で最も長い橋は東京湾アクアラインにかかるアクアブリッジだということだが、たった4.5kmにも満たないのだ。
そして、世界の長い橋といえば、観光名所にもなっているフロリダ州キーウェストの「セブンマイルブリッジ」がすぐ頭に浮かぶし、いつかその上を走るのが私の一つの夢でもあるのだが、これは文字通り、7マイル(≒11km)に満たない。
その3倍もの長さの橋と、いきなり衝撃の出会いをするなんて・・・
こんな橋の存在を知っている人が日本にどれくらいいるだろう。いや、中国にも。
___
今回上海でお世話になった中国人夫妻は自家用車を持っている。夫の方は車が大好きで、あえてマニュアル車に乗っている。そして、彼らの家は、世界でも5本の指に入る、この長大橋の「たもと」と言ってもいいような位置にある。
空港まで送っていただいた日の朝、私がそんなに橋に感動しているならと、乗せていってあげましょうかと考えてくださったくらいだ。
だが、空港と島とは反対方向なので、往復すると66km、一時間近く余分にかかってしまう。高速道路だから途中でUターンもできないだろうということで、泣く泣く諦めた。
その夫婦が、上海(しかも橋のたもと!)に数年住んでいるのに、まだ橋を渡ったことがないというのである。
近くにあるもののありがたみというのは、それほどまでに薄れるものかと、ちょっと感慨深い。
あるいは、万里の長城を有するような国の人間は、これくらいのことでは驚かないのだろうか。
まあ、ただ単に橋なんかに興味がないだけかもしれない(でも、しつこいようだが、世界屈指なんですよ)。
上海に行くというのに、そんな橋の存在すら知らなかった。お蔭で新鮮な出会いがあったけわけなんだけれど、これほど無知なのは、やっぱりどうかと思う。
●上海瞥見
実際に訪問するという意味では、なぜかこれまで大陸中国とは縁がなく、初めて足を踏み入れた。
中国で、訪れた国の数は33になった。
偏りが激しいとはいえ、それなりにあちこち見聞してきたつもりだが、ごくごく短い日程にもかかわらず、初めてや、それに近い経験にけっこう驚かされた。以下、簡単にまとめてみたい。
◎知らなかった・・・
・初めて中国東方航空に乗った。何となく田舎っぽい不安な会社だなあと失礼なことを考えていたのだが、機材は日本航空の倍以上持っているし、就航都市数は比較にならないほど東方航空が上のようだ。
・浦東国際空港が信じられないくらい広い。
・左側に平行して同時に着陸する飛行機があった。
・サンフランシスコ以来か。だが、距離ははるかに遠かった。
・着陸した飛行機がえんえんとタキシングを続ける。
・「こんなに走るんならもう一回飛べよ」と思った。
・その後さらにバスに乗せられてターミナルビルに向かった。
・入国管理官の対応に満足したかを4段階で答えるボタンがある。
・「不満足」を押そうとかと思ったが怖くてやめた。
・ほとんどの人は押していなかった。
・空港で Wi-Fi を使うには、SMSでパスワードを送ってもらう必要がある。
・パスワード送信から入力まで1分しか待ってくれない。
・機内モードにしたままなのを忘れていて、パスワードは帰国後に届いた・・・
・上海市の人口は約2400万人だという。東京都のほとんど倍だ。
・ホテルの洗面所の栓が、直接押さえて回す一軸回転式。初めて見た。
・フリップ式というのだろうか、うまく説明できない。
・水を流したいときは(ふつうはずっと流したい)、コインを立てるように、円盤の栓を縦にする。
・横断歩道を青信号で渡っていて、途中で同行の中国人に止められた。
・日本以上に車優先であるため、車に道を譲らなければ危ないという。
・走っているバイクのほとんどが電動。100%近い。
・ナンバーはついているが、無免許で乗れる。ヘルメットも不要。
・しばしば左側通行(逆行)したり、信号無視したりしている。
・夜間でも無灯火。電動だから節電したいのかも。
・地下鉄
・営業キロは地下鉄としては世界最長だという。
・ホームに降りる前に空港のようなセキュリティチェックがある。初めて。
・ホームに転落防止のための壁や柵がついている。
・いろんなものが日本と同等(以上)に機械化・電子化しており、先進的。
・世界で2番目に高い、昨年竣工した高層ビルの展望台へ1分以内。
・ただし、エレベーターは三菱製。
・高層ビル群の地下は垢抜けていて綺麗で近未来的。
・上海はセントラルパークのないニューヨーク、ここは「現代の」マンハッタンだなと思った。
・IDをかざして使う貸し出し自転車があちこちにある(無料らしい)。
・マスクをしている人は、目にした全員が黒のマスク
・レストラン(複数)
・お冷やではなくお湯が出てくる。
・エビと貝とすいとん?のスープから完全に泥の味がするのに閉口した。
・客のすぐ近くの隅でウェイトレス(女主人かも)が綿棒で耳掃除をしていた。
・食事中の客の横経由で巨大なゴミ箱をキッチンから搬出、のち搬入。
・(念のため、悪い意味で驚いたのは上の3つだけです。)
・空港のターミナルビルに立ち入るだけでもセキュリティチェックがある。初めて。
・空港の搭乗口に熱湯や温水の出る無料サーバーがある。冷水は出ない。
・物価が高い。
・外食や観光物価は日本並み、給料は半額以下というイメージ。
・不動産は2倍以上かも。
・路線バスの運賃は1/10。
・公共の場所や仕事場の室内はすべて禁煙。
・タクシーを含む乗り物内はもちろん、ホテルもレストランもバーも。
・(この点で上海の方が日本より進んでいるとは・・・)
・宿泊したホテル(新築2か月)の客室にはなぜか灰皿があり、近隣の部屋からと思われるニオイもした・・・
◎知ってはいたが・・・
・Google がまったく使えない。Maps も photos も、メールすらも。
・Yahoo! の検索も使えない。
・Facebook も twitter も LINE も使えない。なぜか Skype は使えそう。
・(帰国後、「トランプ大統領は tweet できた」とニュースになっているのを知りました。)
・乗らなかったが、空港から市内まで30kmをリニアモーターカーが7〜8分で結んでいる。
・常設営業中のリニアは世界唯一。
・トイレにペーパーを流してはいけない。
・ただし、空港の個室にはゴミ箱がなく、流すしかないように見えた。
・あちこちにいろんなスローガンが目につく。下は子どもたちが学校で覚えさせられているというもの。
富強 民主 文明 和諧
自由 平等 公正 法治
愛国 敬業 誠信 友善
・(まあいいことを言ってるんですけどね・・・)
___
2泊3日、これまでで最短の「海外旅行」だった。
せっかく海外に行くのに2泊や3泊など考えられないと思っていたが、たとえ2泊でもやはり行ってみるものだと思った。このブログを書き始めた十数年前にも書いたが、行くことになるまでは知ろうともしないし、行けばそれなりの体験はできる。