●上海瞥見(特別編 その1)

 上空から中国を見下ろしたことは何度かある。だが、高高度を飛行中のことで、感嘆するようなものは見つけられなかった。

 今回、上海の浦東空港に着陸しようとしている機内から目にした、中国との初めての出会いは、衝撃的なものだった。

 「何だあれは!?」というような、この世のものとは思えない海上橋が窓から見えたのである。
 最初、とても現実の存在とは思えず、何かの錯覚かと思ったほどだ。

 ものすごく長大な橋が、優美な曲線を描きながら海上をえんえんと続いている。いったい、どことどこを結んでいるのかもわからない。
 そもそも、上海のすぐ東には海しかないはずなのに、いったいどこに続く橋なんだろう?

 調べると、橋の先には小島がいくつかあるだけだ。何のためにあんな橋を架けたのか・・・

 どうやら、そこに港があって、物流拠点となっているらしいのはわかったのだが、だとしても、どうして大陸の沿岸に港を作らないのか。
 そしてたとえば、沿岸は遠浅で港に適さないのだとすると、では今世紀に入ってこの橋が完成するまでは、いったいどうやって大量の海上輸送をまかなっていたのか。

 まあしかし、それすらどうでもよい。

 この「東海大橋」の長さは33km近く、海上部分だけでも25kmに及ぶというのである。

 ちなみに、日本で最も長い橋は東京湾アクアラインにかかるアクアブリッジだということだが、たった4.5kmにも満たないのだ。

 そして、世界の長い橋といえば、観光名所にもなっているフロリダ州キーウェストの「セブンマイルブリッジ」がすぐ頭に浮かぶし、いつかその上を走るのが私の一つの夢でもあるのだが、これは文字通り、7マイル(≒11km)に満たない。

 その3倍もの長さの橋と、いきなり衝撃の出会いをするなんて・・・

 こんな橋の存在を知っている人が日本にどれくらいいるだろう。いや、中国にも。
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 今回上海でお世話になった中国人夫妻は自家用車を持っている。夫の方は車が大好きで、あえてマニュアル車に乗っている。そして、彼らの家は、世界でも5本の指に入る、この長大橋の「たもと」と言ってもいいような位置にある。
 空港まで送っていただいた日の朝、私がそんなに橋に感動しているならと、乗せていってあげましょうかと考えてくださったくらいだ。
 だが、空港と島とは反対方向なので、往復すると66km、一時間近く余分にかかってしまう。高速道路だから途中でUターンもできないだろうということで、泣く泣く諦めた。

 その夫婦が、上海(しかも橋のたもと!)に数年住んでいるのに、まだ橋を渡ったことがないというのである。
 近くにあるもののありがたみというのは、それほどまでに薄れるものかと、ちょっと感慨深い。
 あるいは、万里の長城を有するような国の人間は、これくらいのことでは驚かないのだろうか。

 まあ、ただ単に橋なんかに興味がないだけかもしれない(でも、しつこいようだが、世界屈指なんですよ)。

 上海に行くというのに、そんな橋の存在すら知らなかった。お蔭で新鮮な出会いがあったけわけなんだけれど、これほど無知なのは、やっぱりどうかと思う。