◆運転免許証更新時講習による収穫

 運転免許の更新など、貴重な時間とお金を奪われるだけだと思っていらっしゃる方も多いのではないだろうか。
 実際、明確に意味のあることと言えば、視力を測定されることくらいである。
 フランスやドイツなど、免許更新が不要な国も多い。

 まあそれでも、はなはだ不十分ではあるが、高齢ドライバーには認知機能検査を課したり、運転に適さない病歴があることを自己申告させたり、安全意識を講習で喚起したりと、意味がないわけではない。
 写真をアップデートしておく必要もあるかもしれないし、道路交通法改正のポイントをおさらいするのも悪くはない。

 いずれにせよ、やらないですませるという選択肢はないので、仕方なく更新に行ってきた。

 誤算だったのは、前回までと違って、講師がきちんと授業のようなものを行うことである。そのせいで開始時刻が決められており、ずいぶん待たされることになった。
 以前なら、任意の時間に入ってエンドレス上映中のビデオを見、見始めたところまで来たら終了という感じだったので、特に時間を考えずに更新に出かけて失敗した。
 結局最悪のタイミングになって2時間20分も待たされたし、全部で4時間近くかかってしまった。

 帰宅してから「運転免許更新連絡書」のハガキを見ると、最後のところに小さな字で「講習開始時刻は、受講を希望される警察署にお問い合わせください」とあった。わかっていれば問い合わせたのだが、そんなものを電話で問い合わせたり答えたりするのも双方にとって面倒である。Webにでも一覧できるようにしておけばいいのに。

 それはともかく、これを書き始めた動機は、更新時講習で意外にも改めて発見/学びがあったことだ。

 いや、申し訳ないけれど、講師の話から学ぶことはほとんど何もなかった。たいていは「おっしゃるとおりですね」、いくつかは「その説明の仕方や統計の扱い方には疑問があります」という程度。
 まあ、安全意識について思いを新たにするという意味では、もちろん有意義であった。

 発見/学びは、意外なところから訪れた。

 典型的な右直事故について、わかりやすいイラストを添えて講師が説明する。直進は二輪車のオートバイ、右折は四輪の車。
 「さて、この事故の主な原因は何でしょうか?」

 指名された受講者はなんと、「わかりません」と言うのである。やる気がないとか反発しているとかそういうのではない。重ねて問われても首をひねっている。
 「では質問を変えましょう。直進と右折とではどちらの車両が優先ですか?」
 「えっと、直進ですか?」
 もちろん正解だが、もっと自信を持って答えてほしい。
 さすがは講師、ここでちょっと疑問を持ったのかもしれない。
 「では、直進右折等が関係ないとしたら、二輪車と四輪車ではどちらが優先ですか?」
 「四輪車です」
 イラストでは二輪車が直進なので、イラスト由来の勘違いではない。
 「あ、あ、いや、いや、いや・・・」と講師。
 私も思わず、「えええっ !?」とかなんとか、声を漏らしたかもしれない。
 気を取り直した講師はさらに、
 「そうですか、では、ダンプカーと軽自動車ではどちらが優先でしょうか?」
 「ダンプカーです」
 うわお。
 「あの・・・ 衝突した場合にどちらの被害が小さいかというふうに勘違いなさっているのかもしれませんね」と講師は苦しいフォローを入れるのだが、その発言への反応からも、明らかにそうではないことが見てとれた。
 (免許をお持ちでない方のために:二輪も四輪もダンプも軽も優先度に違いはありません。また、車種によらず、直進と右折とでは直進が優先します。)

 もう一人。
 今度は典型的な左巻き込み事故。左折する車とその左後方を直進する二輪車。例によってわかりやすいイラスト付。
 「この事故の主な原因は何ですか?」
 「えっ、私ですか? うーん、えっと・・・」(間)「車が左をよく見てなかったからですか?」
 「そうですね。左折するときは左側をよく確認することが必要です。では、どうやって確認しますか?」
 「ミラーで」
 「そうですね、ミラーできちんと確認してください。まずはドアミラーとバックミラーと両方の確認が重要です。他にはどうやって確認しますか?」
 「えっ?」
 「他に確認の方法はありませんか?」
 「他ですか・・・?」
 「他の方法で確認はしませんか?」
 かなり待ったが、答えられない。
 講師は、
 「車には死角がありますから、ミラーだけではなく、首を動かして直接目で見て確認しなければなりません」と、当たり前のことをいう。「なるほど、そうなんですか」と言いたげな受講者・・・
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 今回の講習の最大の収穫は、これほど愚かで無自覚な人たちにも自動車免許が与えられ、公道上を当たり前のように走行することが許されているという事実を、改めて思い知らされたことだった。

 特に二輪車にとっては、こういう人たちは自分の命をおびやかす存在となる。
 よく言われることだが、オートバイに乗るときには、周囲の車両が何もわからない愚か者だと思って、さらには、無自覚に自分を殺しにきている暗殺者だと思って運転しなければならないのだ。

 この話にはちょっとしたオチがある。

 講師の質問にまともに答えられなかった2人は、5年間無事故無違反の優良運転者講習の受講者だということで、開始30分で帰っていった。受け取る免許はゴールドである。
 「あんな人たちをたったこれだけの講習で野放しにしていいんですか」と言いたかったが、もちろん言っても詮のないことなので何も言わない。何とかしたいと思っても、講師だって制度上何もできないのだ。
 あの2人が、ペーパードライバーであってくれることを祈る。そして、もしそうなら、願わくは、再度の十分な教育なしに運転しようなどという気を起こさないことを。

 右直事故左巻き込み事故などについて、やろうと思えば5分でも10分でも、双方の優先関係や注意義務や過失、さらには運転者の認知特性や車両の特性まで理路整然と説明できる私(自信過剰のようで申し訳ありませんが、ドライバーやライダーなら本来だれもが説明できるべきです)は、一度「軽微な違反」で検挙された前歴があるので、居残り講習となった。免許はブルーとなる。

 自業自得とはいえ、理不尽なことである。