■モバイル通信の旅 in Iceland

 最初の洗礼を受けたのは、乗り継ぎ便に間に合わなかったヘルシンキの空港だった。

 アイスランドのレンタカー会社に電話するため、フィンランド航空の係員に「どこかに公衆電話はありませんか」と聞くと、「空港に無料の Wi-Fi が導入されてから、電話はなくなったと思う」と言われた。
 確かに、この時も帰りにも、公衆電話は一切見かけなかった。

 携帯電話の必要性はうすうす感じていて、アイスランドに着いたら息子の iPhone 6s Plus に現地のSIMを調達して使う予定だった。
 だが、アイスランドに着く前に電話が必要になろうとは。

 その時は結局、係員が持っていた携帯を借りて電話ができた。国際電話をかけるというのに、気軽に貸してくれたけれど、考えてみれば、「国際電話」などという概念自体がもはや古すぎるのかもしれない。メール(e-mail)には、もともと「国際メール」などという概念はない。

 後で気づいたのだが、私の iPhone 6 Plus からでも IP電話はかけられた。しかし、他国に電話したことなどなかったので、かけられるかどうかもあまり意識していなかったし、かけ方も知らなかった(調べると、最初に 010 をつけるだけだった。料金も安い)。
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 その後も洗礼は続いた。

 アイスランドに到着して最初にするのはレンタカーを借りることだった。

 これまでのように、書類にイニシャルをどんどん入れていって最後に署名するのだが、それらがすべて iPad 上で行われた。
 何となくうら寂れた真夜中の空港の外れで、くたびれた建物の中で愛想のない係員相手に行うにしてはなかなか現代的だなと感心していると、「契約書は pdf にしてメールで送ったから」と言われ、いつものようには書類をくれず、紙はカーボンコピー1枚だけになった。

 まあ、何ごともなければ契約書なんて見ないけれど、「旅行中にメールで送られてもなあ」とちょっと思った。

 ところがというか、その後も、宿泊施設からチェックインやそのための待ち合わせの方法などのメールがバンバン届く。
 これはまあ、予約をすべて Booking.com を通して行い、ほとんどがゲストハウスやアパートメントに泊まったからというのもあるのだが、旅行中にメールが見られないとかなり不自由をするし、時には致命的になるのではないかという気がした。

 「これこれの場所のこのキーボックスを開けて鍵を入手してください。暗証番号は○○」とか、「到着の10km手前くらいで電話してください。その後現地で待ち合わせましょう」とか、そんなメールを読んでいなかったり、来たことすら知らなかったりしたら、ひどく困っただろうと思う。

 後者の場合、「もし電話ができない場合は改めて別の指示を送るので連絡してください」とも書いていたが、公衆電話が見当たらない状況で(実際、アイスランドで見たのは夕食を食べたホテルにあった古いコイン式のが1台のみであった)電話ができる環境にあるというのも現地では大切なことだった。

 最終日近く、空港にレンタカーを返却してバスでレイキャビクの街に戻り、出国の際に必要だからと空港までのバスの時刻や予約について係員に聞くと、手持ちの時刻表なんかを見せてくれたのだが、「時刻表の載ったパンフか何かもらえませんか」と頼んだところ、"Check our website." と言われたのにはびっくりした。
 ウェブサイトが見られなかったらどうするんだよ。

 結局、時刻表のパンフはカウンターのこちら側のラックにあった。「これに載ってますね」と見せると、「ああ、それそれ、それがあったわね」とは言うものの、係員はその存在すら忘れていたようだった。

 いずれにせよ、滞在中のアパートのすぐ近くでピックアップしてくれるバス( flybus )の予約はネット上で行い、チケットも iPhone に送られてきた画面を見せるだけということになった。

 これら以外にも、現地の情報を種々調べたり、レストランや宿泊施設に電話したりするのに、現地のSIMを入れた息子の iPhone が非常に役立った。

 なければないでなんとかなった・・・というよりは、ないとかなり困っただろうなあというレベルだったと思う。

 なんか、世の中(というか Booking.com とアイスランド?)のシステム自体が、「旅行者も常にモバイル通信や通話が可能なのが常識」という前提で成り立っていたような気がする。

 あの、何十キロにもわたって建物が見当たらないような国で。

 4年前の旧東ヨーロッパの時には「GPSの旅」というエントリを書いたが、あの時には、Wi-Fi のない場所でパソコンや iPhone を使おうとすらしていなかった(後で気づいたのだが、そもそも iPhone 自体持っていなかった! 買ったのはその年の秋であった・・・)。それでも、特に不自由は感じなかった。

 4年経って、今度は「モバイル通信の旅」。

 便利になったのか、不便になったのか。