★旅のおとも

 何もかもが初めてだった二十歳のときのヨーロッパひとり旅の際は、「帰国するまで日本食を食べない」という青臭い誓いをたてて出かけた。

 だが、1か月を過ぎてから、最後の街となったパリでちょっとしたホームシックにかかり、もうどうでもよくなって焼き鳥やらラーメンやらを食べ、そのおいしさに身震いしたものだ。

 味覚というのはどうしようもなく体に染みついているんだなあと実感した。

 その後の旅行では日本食云々のこだわりはない。それでも、できるだけ現地の食べ物を食べたいとは思っている。
 だからというわけではないが、海外に出るのに日本から食べ物を持っていったことは一度もない。そもそも、そういう発想がほとんどなかった。

 しかし、今回の旅行では初めて、インスタントラーメンとレトルトカレーを持っていくことにした。

 向こうでそのふたつが恋しくなるからではない。以前ここにも書いたとおり、ホテルから一番近いレストランが50km以上先で、かつ、一人一食3千円以上かかるとか、そういう状況に陥る可能性が非常に高いからだ。

 いわば非常食である。

 以前、アメリカの田舎(今調べたらワイオミング州だった)で恐竜化石の博物館だかに行った際にちょうどランチタイムになり、そこでは何も食べられそうになかったので、学芸員?に「近くにレストランはありませんか」と聞くと、「30マイル(≒50km)以上走らないとない」と言われて驚いたことがあったが、今回の旅行ではそういうのが毎日のことになりそうで怖い。

 アメリカの砂漠的田舎には行くたびに驚かされているが、アイスランドほど見捨てられた最果ての地を旅した経験はない。まさに deserted island という趣きだ。

 アイスランドの人口がたった30万人ほどだというのは知っていた。だが、旅行の計画をたてはじめるまで、これほどまでに荒涼としたところだとは思っていなかった。
 何といっても北欧なのだというバイアスが、目を曇らせていたのだろうと思う。

 人口密度は日本の100分の1以下。世界でも5本の指に入るほど、人が少ない国なのだ。
 そして、国土のほとんどは火山か溶岩か氷河である。

 なのに、というか、だから、なのか、物価はべらぼうに高い。

 少しでもマシなところに宿泊できるようにがんばるのに必死で、それなりの宿が確保できたら、もうゲームオーバーというか、Mission accomplished という感じだった。
 そのせいで、肝腎の「どこに行きたいか」についてはまだほとんど考えていない。

 まあ、飛行機の中でだって、時間はたっぷりある。滑走路から無事に脚が離れれば。