◆ないものねだり
年に何日もないような清澄な空気。
街も山も、本来の彩度を取り戻したかのような色彩に覆われ、木々の緑は言うにおよばず、家々の屋根や壁までもが新鮮である。
季節は初夏になっているので寒いわけではないが、「冴えかえる」という春の季語は、こういう日のことを言うのではないかと思った。
夕刻、バイクで走っていると、確かに風が少し冷たい。
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飛びたい、と切実に思ったのは久しぶりだ。その代わりにはならないが、仕事帰り、バイクで高台に登って大阪平野を見下ろす。
急に視力がよくなったかのような風景・・・
生駒山系の奥の山なみまで見えたのは、もしかしたら初めてではないだろうか。
瑞々しい緑は、一夜にして出現したんじゃないかと思うくらい鮮やかだ。
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「いつもこんなふうに綺麗な緑が見られればいいのに」とは思うものの、毎日が今日のように乾燥していたのでは、木々はこんなふうには育たない。
地中海に面した南ヨーロッパなら、こんな日は珍しくないだろう。
だがもちろん、圧倒的なまでの豊かな植生はそこでは望めないのだ。
この冴えかえる空気を切り裂いて無音の飛行機を飛ばし、2.0の視力で珊瑚礁も氷河も万緑も見てみたい・・・
どこをとってもないものねだりである。