★弘法以外は筆を選ぶ

 1万5千キロほど走ったバイクのタイヤを交換した。

 ディーラーで「前はそろそろですねぇ」とか言われながら、けっこうたっぷり溝が残っているように見えるので、「替えてもいいけどまだもったいないかなあ」とか思っていたのだが、よく見ると、前輪はスリップサインまでごくわずかだった。
 車と違い、真ん中だけどんどん減っていくのを忘れていた。サイドはそれほど減っていないので、ぱっと見たところではまだしっかり溝があるように見えるのだ。

 後輪は「これでもか」というくらい溝は残っているし、スリップサインまでまだ半分くらいという感じだったのだが、前後輪同時に交換した。

 新しいタイヤは、ミシュランパイロットロード4(Michelin Pilot Road 4)。このバイクを購入したときから気になっていた銘柄(当時は3だった)で、他の選択肢はほとんど考えなかった。

 しかしそれでも、これほど素晴らしいとは予想していなかった。

 極低速から高速まで、直進性が高い。それでいて、曲がりたい方向に軽くすっと曲がりはじめる。コーナリング中の安定感も高く、曲率一定のレールの上をトレースするように気持ちよく進んでいく。

 タイヤ屋さんが「違うバイクみたいになりますよ」と言って送り出してくれたときは、「それはちょっと大袈裟なんじゃないか」と半信半疑だったのだが、「みたい」どころか、ほんとにもう、まったく違うバイクである。

 これまでの低速での不安定感、コーナリングでの不安感はすっかりなくなってしまい、2レベルくらい上手になった感じですいすい進んでいく。
 苦手だったタイトコーナーも、くるんと回っておしまい。「アウトに膨らみそうだなあ」と思っても、それを意識するだけで、そうならずに綺麗にクリアできてしまう。

 タイヤを替えるだけでこんなことになるとは・・・

 「弘法以外は筆を選ぶ」というタイトルにしたが、弘法大師だって、もしかしたら筆は選ばなくてもタイヤは選ぶかもしれない。
 それくらい違う。

 クルマの場合、せっかく新しくていいタイヤに替えても、ほんのわずかな違いしか感じられない。家人などは、まったくわからないといってはばからないほどである。
 しかし、いくらなんでも、これだけ違えば誰でもわかる。家人に実感させてあげられないのが残念だ。

 それにしても・・・

 こんなことなら、もっと早く替えておくんだった。安全性だって数倍にはなっただろうと思う。

 ・・・だが、あまりにも気持ちよくスムーズに走るので、知らず知らずワインディングのペースが上がってしまっているのに気づく。この寒さの中、路面が濡れていたりもするのに。
 実際にはウデはまったく上達しておらず、新品のタイヤ性能に乗せられているだけなのだ。

 昨今、クルマの性能がすっかり上がってしまい、何の不安もなくスピードが出て楽にカーブを曲がっていけるのと似ている。
 そういうふうに走っていて何かあったとき、クルマはそれでも廃車程度ですむかもしれないが、バイクの場合は命にかかわる。

 とにかく調子に乗らないよう、コーナーを1つクリアするたびに自戒している。