★おいしい日本酒の謎

 酒がまったく飲めない。

 職業を選択するときにも酒が飲めないことを意識していて、それが選択理由の一つになった。

 母親はまったく飲めず、それなりに酒好きな父親も量は飲めない。
 以前にも書いたが、父親も会社で営業に回されるまではまったく飲めなくて、仕事の必要上、40歳を超えてから無理して飲み始めたということを最近になって知った。
 自動車免許にせよゴルフにせよ、仕事上必要だったから・・・という世代である。

 それはともかく、私自身は、今に至るまで仕事上の必要性もないし、まったく飲めないままでいる。
 飲んだことがぜんぜんないというわけではない。だが、飲むとすぐに頭ががんがん胸がむかむかして、何一ついいことがない。
 酒がおいしければ「飲めなくて残念」となるのだが、おいしくもないので、それもない。

 ただ、気持ちよく酔うというのを経験してみたいとは思う。世のほとんどの人が合法的にトリップしているなんて、にわかには信じがたいほどの事実である。

 そんな私だが、今まで2回だけ、おいしいお酒を経験している。一度目は、信州の牧場でいただいた牛乳酒。二度目はアメリカのレストランで飲んだドイツワイン
 不思議なことに、気分も悪くならなかった。ほろ酔いとかにはならなかったけれど。

 残念ながら、ドイツワインの方はかなり探したのだが見つからなかった。牛乳酒はそもそも販売されていない。

 そんな中、3度目のおいしいお酒を発見した。
 父親への手土産にと、実家に行く際に銘酒店で見つくろってもらった二本のうち、無濾過の純米吟醸、生酒の方(もう一方は未飲)。

 これが実においしかった。日本酒がおいしいと思ったのは初めてである。
 あのツンとくるアルコールの感じが一切ない。とろりとした旨みの中に芳醇な果実のような味わい。これが「米・米麹」だけからできた飲み物だとは到底思えない。
 他人のブログを検索すると「洋酒の入った生クリームみたいな」「キャラメルっぽさも感じ」るという記述がある。
 まさにそんな感じ。それが日本酒なのだ。

 Sake というよりは Rice Wine と言った方がぴったりくる。

 次の日早速、同じ店で同銘柄の小さい瓶を買った。自分で飲むために日本酒を買うのなど、もちろん初めてである。

 ところが、前日に飲んだのとまったく違うのだ。例のアルコール臭はあるし、あの馥郁たる とろみ も感じられない。
 父親に買ったのは「仕込27号」で、自分用は「仕込19号」。意味のわからない「24BY」という記号も、父親のとは違うようだ。上記の「洋酒の入った生クリームみたいな」「キャラメルっぽさ」というのは父親のとぴったり合うのだが、それは仕込17号14BYである。

 蔵元のウェブサイトには「ブレンドを一切しません。」「無理な味の統一化をしません。その為、同じ銘柄、種類の酒でも仕込号数の違いにより、酒の成分に若干の違いがあります。」とあるのだが、まったく同じ銘柄の酒をほぼ同時に買って、これほどの違いがあるのは到底納得できない。
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 今考えているのは、温度管理の問題ではなかろうかということである。火入れも一切していない無濾過の生酒だから、「瓶内で酒は生きてい」るという。したがって「要冷蔵」なのだ。

 ところが、父親に買った一升瓶は、(おそらく)14℃くらいのワインセラーのような部屋に置かれていた。しかもその後数時間、常温で放置してしまった。
 自分用に買った四号瓶は、冷蔵庫に保管されており、保冷したまま持って帰った。「要冷蔵」を知った後だからである(最初の購入時に酒屋のご主人が教えてくれなかったのはどうかと思う)。

 つまり、蔵元の推奨しない温度管理が瓶内での熟成を進め、酒の味がわからない私好みの芳醇さを獲得したのではないかと思うのである。
 そういえば、上記の「洋酒の入った生クリームみたいな」「キャラメルっぽさ」を持つ酒は、特約店で購入されていない。蔵元のウェブサイトには、「冷蔵庫で」「しっかりと保管管理されて」いるから「必ず特約店でお買い求め下さい」と書いてあるにもかかわらず。

 だが、私が買ったのは特約店なのである。しかも、しっかり冷蔵庫に入っていた方がまずいとはどういうことだ。
 まあ、酒飲みにはそちらのほうがおいしいのかもしれないけれど。