★遠き花火

 会議が始まる前、隣に座った同僚が何気なく「今日はPLの花火ですね」と言った。

 今まで一度も見たことはないが、全国でも有数の(ということは世界でも有数の)花火大会であることはもちろん承知している。
 でも、人混みが嫌いだし何となく遠いしで、今まで一度も足を運んだことがなかった。どうも毎年8月1日であるらしいのだが、そんなことすら知らなかった。

 ただ、今年になって手軽に行けるようになった箕面の丘から大阪平野が一望できることを知っていたので、そこから遠方の花火を見てみようという気になった。

 夕食後に出かける。

 思いのほか、夜風が涼しく快適だ。
 もちろん花火は大きくはないが、肉眼でも思ったより綺麗にはっきりと見える。これはこれで、近くで見るのとはまた違った趣がある。
 しかも、双眼鏡を使うとけっこう大きく見え、それでいて視野内にすべての花火がおさまるのでなかなかいい。

 望遠鏡を持ち出そうと思っていて忘れたのをちょっと後悔した。場所が固定されているから、望遠鏡にはもってこいだ。おそらく、視野いっぱいに花火が広がることだろう。
 来年はぜひ、と思った。気の長い話である。

 驚いたことに、花火の音までが聞こえてくる。調べると、直線距離で40kmほどあるので、ほぼ2分後!に音が聞こえてくることになる。ちょっとしたタイムマシンだ。

 花火の上空が大阪空港のファイナルと重なって見え、次々と飛行機が降りていくのもおもしろい。こんな日のこんな時間の飛行機に乗り合わせ、上から見下ろすことができた乗客たちは幸運だ。

 それほど知られた場所ではないが、花火がなくても夜景が綺麗で、車が十台くらいは停まっていただろうか。エンジンをかけたままの車が多いのは興ざめだった。

 車の外にいる見物人は、カップルが数組と家族連れが1組。若い女の子らしいのは、みんなミニスカートを履いている。
 タンデムのバイクで来たカップルの女の子もミニで、ちょっとどうなんだと思わされた。

 まあ、いずれにせよ、みんな幸せそうだ。

 さすがの私も一人で花火は見に行かないので、今日は隣に家人がいた。

 かつて、サントリーのコマーシャルで「恋は、遠い日の花火ではない」というコピーがあったのを思い出す。
 だが、近くのカップルたちを見ていると、明らかに、恋は遠き花火なのだと思い知らされた。