●一段ずつ

 ふと気がつくと、階段を一段ずつ踏みしめて上がっていた。いや、「踏みしめて」というほどのことはないのだが、一段ずつは間違いない。

 いつからだろう?

 階段というのは、何も考えなくても一段飛ばしで二段ずつ上がるのがふつうだった。なのに、知らないうちに一段ずつになっている。

 その話を家人にすると、そういえばうちの息子は家の階段をいつも一段飛ばしで上がっているという話になった。
 私自身は気づいていなかったが、まさにそう言っている最中に息子がどたどたと上がってきた。
 なるほど、あいつが階段を上がる音がうるさいのは、いつも一段飛ばしで駆け上がってくるからなのだ。

 要するに、若い時にはまだるっこしい「一段ずつ」が、いつの間にか自分の標準になっているのである。

 何たること。

 今日は意識して職場の階段を二段ずつ上がってみた。特に難しいということはもちろんない。息子と違って、二段ずつ静かに上がる術も心得ている。
 だが、自然に選ぶことになるのはやはり、一段ずつだろうなあという感触もあった。

 自然の流れに逆らってわざわざ自分の行動を変えなければならないということ自体が、年を取ったということなのだろう。しかし、そう自覚しつつも、階段は二段ずつ上るようにしたいと思う。

 やろうと思ってもそれができなくなれば、次の曲がり角だ。そうなったら諦めて、一段ずつ人生を進めていくしかない。

 でも、そうなるまでにまだたっぷりと時間はあるし、「二段ずつ」がその時間を延長するにちがいない。