◆イタリア・・・

 これもまた特に何も考えていなかったのだが、やっぱりここはイタリアだった。

 いや、何も考えていないとはいっても、ひったくりやスリにはかなり注意している。
 実際、ミラノ中央駅自動販売機にまず表示される文言は「スリに気をつけて下さい。使い方を教えようとする人には要注意です。わからないことがあれば必ず係員に聞いてください。」というような注意書きであり、実際にボタンを押していると、さっそく、「使い方はわかりますか」みたいな感じで係員ではない風体の男が親切そうに近づいてきた。
 そういう土地柄である。

 だが問題は、そういう悪意ある連中ではなくて、なんかもう、文化的に「働く」ということの意味が違うことに起因するものだ。

 たとえば今朝は、新市街から旧市街に登るケーブルカー(フニコラーレ)の切符売り場が開いていなかった。時間が早すぎるからではない。係のおばさんが(たぶん勝手に)席を外しているからである。

 窓口にはアクリル?のブロックが置いてあるだけで、Closed に相当するような文字や、「〜分後に戻ります」といったような表示は一切ない。いろんな国籍の観光客が十数人、わいわいがやがやと各自意見を述べるが、切符が買えないことには変わりない。

 そのうち、すぐ横のカフェで切符が買えるという情報を得た。買いに行くと、われわれが買いたい3日券や1日券はチケット売り場でなければ買えないという。「売り場はいつ開くのか」というと、カフェのおにいちゃんは「10分後」と答えた。
 仕事仲間が乗り場で列車の修理をしているおじさんに聞くと、今度はOne Minute(1分? すぐ?)と言われたというので待っていたが、5分以上経っても開かない。「もしかして、修理が終わるまでが1分では?」と、もう一度聞き直しても、やはり One Minute である。そうこうしているうちに、切符を買えない乗客を残して、別の列車が出発してしまった。

 なぜこっちは1分で向こうは10分なんだろう? そもそもどうして、カフェの店員が10分だとわかるんだろう? とか言い合っていると、なんと、カフェから鍵束を持った女の人が出てきて、「まさかあの人では?」と見るうち、ものすごくゆったりとブースの裏に回り、鍵を開けて中に入ってきた。
 この人は、世界各国からの観光客を不安にさせたまま、コーヒーを楽しんでいたのだ。店員が10分と言ったのは、彼女のいつもの様子を知っているからに違いない。

 こういうとき、イタリア語で皮肉の一つでも言えればいいんだけれど、もちろん何も言わないし、言えなかった。笑顔で!切符を買おうとすると、クレジットカードは使えないという。マクドナルドでも使えるのに、もうすぐ世界遺産になろうかという旧市街へ行く交通手段に使えないとは・・・

 長々と書いたが、まあだいたいにおいてそんなものである。この手のことでめげていたのでは、イタリアではやっていけない。
 昼食の支払いはクレジットカードでできそうだったのに、機械の不調のせいか、2枚とも使えないと言われた。

 最後に・・・

 仕事で行った由緒ある建物(部屋の壁に(たぶん)フレスコ画が描かれていたりする)の中で派手に転んでしまい、右目の右下と左膝にすり傷ができた。何より困ったのは、眼鏡が壊れてしまったことである。幸い、この春に大枚はたいて買ったレンズは無事で、フレームも修理すれば何とかなりそうだが(希望的観測)、この文章も、見えにくい別の眼鏡で書いている。
 これもイタリアのせい・・・ではないかもしれないが、予想しない段差が待ち構えているという点では、私のせいばかりとは言えない ^^;

 「大人になってから、歩いていてあんなに派手に転んだのは初めてじゃないかなあ」と考えるうち、少なくともあと2回あったのを思い出した。でも、いずれもここ10年以内のことである。
 老化のせいではなく、なんとかイタリアのせいにしたいんだけれど。