●だれも申告納税していないのか?

 事情があって確定申告しなければならなくなり、期限も迫ってきたので観念して昨夜申告書を作成した。
 ネットでできるようになって、作成自体はものすごく楽になった。まあそれでも、ややこしくて戸惑ったりするのは相変わらずだけれど。

 できあがった申告書自体は税務署に郵送すればよい。だが、追加で納税する必要があるので、そのお金はどうやって払うんだろうとは思っていた。
 国税庁のサイトが確定申告書と同時に打ち出した公式の「納付方法」を見ると、「納期限までにお近くの金融機関又は所轄の税務署の納税窓口で納付してください」とある。「納付書の送付や納税通知等によるお知らせはありません」とも明記されている。

 なあんだ、そんなに簡単なんだ。じゃあ銀行へ行って振り込めばいいや。

 でも、納期限が3月17日(月)だということは、要するに今日か月曜日かしかない。お金は申告が認められた後だと思ってのんびり構えていたのだが。
 まあ、朝一番で銀行に行けば午前の仕事にも十分間に合いそうなので、今日行くことにした。

 いつも固定資産税やら自動車税やらを納付している銀行に着き、案内の係の人に「確定申告の申告納税をしたいんですけど・・・」と言うと、ちょっと怪訝な顔で、「納付書はお持ちでしょうか?」と聞かれた。
 「いえ、持っていません」と言うと、「納付書もなしに納税できるわけないでしょうが、あんた」みたいな表情を一瞬浮かべた後、「納付書なしで、でございますか?」と聞く。「ええ」。
 困りましたね、どうしましょう、みたいな表情なので、例の国税庁の書類を見せた。
 「お近くの金融機関《中略》で納付してください」
 「納付書の送付や納税通知等によるお知らせはありません」

 「妙ですね」とは言わなかったが、不思議そうな顔をしてカウンターの向こうに入り、別の人に何やら聞いている。それも2〜3人に。
 やっと戻ってきたと思うと、「○○税務署への納付でしょうか」と聞く。
 「いえ、△△税務署です」。
 「うちでは、○○税務署への納付しかできませんので・・・」。
 なるほど、○○税務署ならできるらしい。それを知らなかったのか?
 「いや、でもここに、「お近くの金融機関で」と書いてあるんですが・・・」
 「申し訳ありません」
 「わかりました。じゃあ、△△支店へ行けば大丈夫ですね?」
 「いえ、ちょっとわかりません。確認して参りますので少々お待ちください」

 しばらくして戻ってきて「お客様のご住所は・・・」。「△△市××ですが」。
 かなり待たされた後、「△△支店へ問い合わせましたがちょっとわかりかねますので、どこで納付できるかは△△税務署へお問い合わせください。連絡先はご存じでしょうか」

 確かに、「お近くの金融機関で」と書いてあるのは国税庁の勝手だ。しかし、この○○支店で○○税務署に納付できるなら、△△支店で△△税務署に納付できないとは思えない。それに、△△支店に問い合わせてもわからないとか、いったいどうなっているのだ。

 だいたい、もう確定申告の期限直前である。これまで、この支店で申告納税をしたいという客は一人も来なかったのか。来ていたとしても、この案内係にとっては初めてであるほど稀な存在なのか。
 ちょっと信じられない。

 しかたないので、近くの別のメガバンクに行って、同じことを聞いてみた。案内係とのやりとりは、さっきのを録画していたのではないかと思うほど同じであった。
 ただ、「うちでは、○○税務署への納付しか」という答が返ってくるのがさっきよりは早かった。しかも、その用紙を見せてくれて、「税務署の名前と口座番号がおわかりになればこの用紙を書き直して納付できるかと思うのですが・・・」と言う。

 なるほど、どの税務署へ納付できるかというのは、結局、銀行の支店があらかじめ印刷した用紙を用意しているかどうかだけの差なのだ。
 だが、税務署名はともかく、口座番号などわかるはずがない。電話して聞けば教えてくれるのかもしれないが、こんな時期に税務署にかけて電話がつながると思う方がどうかしている。

 仕方ないので、△△市の銀行へ向かう。この辺は市境が入り組んでいて、すぐ近くに4つの市が隣接している。生活域と行政域とが一致していないので、こんなことが起こるのだ。

 △△市の銀行へ行くのなら、いっそのこと税務署まで足を伸ばそうかとも考えたが、相当な渋滞である。平日のこの時間にこんなに混むのは珍しいので、税務署へ行く人たちの車も多いのだろうと思う。だとすれば、納税窓口の混雑は恐ろしいことになっているに違いない。

 3つめの銀行へ向かう途中、ゆうちょ銀行の△△市本局があったが、無駄足が予想されたので見送る。
 大渋滞の中、苦労して駐車場に車を駐める。今度は△△市なんだからスムーズに行くはずだと思っていたのに、やはりというかまさかというか、同じことの繰り返し・・・
 「納付書はお持ちでしょうか」「いえ」「そんなはずは・・・(という顔)」「ここにも納付書の送付や納税通知等はありませんと書いてあるんですが・・・」

 やっぱりカウンターの奥まで問い合わせに行く間、座って待たされる。なんでこんな面倒な思いまでしてお金を払わなければならないのか。もうやめようかなあとか思っていると(やめると脱税になるんだろうなあ)、「この用紙でよろしいでしょうか」と持ってきてくれた。
 そこには「△△税務署」「所得税」「確定申告用」とはっきり書いてある。ちゃんと用意されてるんじゃないか。

 不思議なのは、窓口の人がその用紙を初めて見たらしいことだ。繰り返すが、確定申告の申告納税は、今日を含めて残り後2日だけなのである。

 そんなにも、だれも申告納税していないのだろうか。

 どんなに少なくても、大銀行の支店一つあたり数百人くらいは来るはずだと思うんだけど。
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 結局のところ、国税庁の書類に「お近くの金融機関」ではなく「確定申告による所轄の税務署への納付を扱う金融機関」とでも書いてあればよかったのだろう。それなら事前に銀行に確認した。

 だが、確認しても「ちょっとわかりかねますので、どこで納付できるかは△△税務署へお問い合わせください」とか言われかねない(現に面と向かって言われた)。

 国税庁も税務署も金融機関も、もっときちんと仕事をしてほしいと思う。ただでさえ乏しい納税意欲がますます削がれてしまわないように。