★30年ぶりのウィーン

 オーストリアはともかく、ウィーンに来るのはほとんど30年ぶりになる。

 長いフライトと乗り継ぎ、さらには着いてからの鉄道と徒歩に疲れてホテルに辿り着いたのは夕刻だった。
 名古屋で仕事をしていたのが遠い昔のように思える。

 シャワーを浴びて休憩し、18時30分ごろから、歩いてシュテファン教会を往復する。

 オペラ座を経由して歩行者天国をまっすぐ進むと、突き当たりがシュテファン教会らしい。
 こんなにぎやかな大通りがあっただろうかといぶかしみながら歩き、途中で夕食をとってから教会に着いた。

 そこにあったのは、紛れもない30年前のあの教会なのだが、雰囲気というか立地というか、それがまったく違っていて驚いた。
 記憶の中にある、うら寂れた路地裏の狭い広場に面したその姿がかき消されてしまうのがしのびなく、しばし、どうしようどうしようと埒もないことを考えていた。

 斜め向かいは ZARA の鏡張りビルで、かろうじて景観を台なしにはしていないものの、昔は(少なくともそういう外観では)なかったことが明らかな建物だ。
 それはまあよい。

 だが、教会前に立派な広場があるのが解せなかった。

 30年前に私がたぶん3度は佇んだ場所はここだとわかるのだが、当時こんなに広かったという記憶がないのである。
 寒く、暗く、人出の少ないことが、狭さを感じさせていたのではたぶんない。

 そう思って見ると、広場の地面に建物の跡をかたどったような敷石を見つけた。もしかしたら、ここにあった建物が取り壊されたのではないだろうか。それで広場が一気に広くなったのでは?

 ・・・今日はもう疲れた。また今度調べてみよう。

 ともあれ、新しい記憶や写真で、昔の記憶を上書きしたくはない。

 たとえば・・・

 偶然が重なってスイスのモントルーの山に一緒に登り、その後また偶然にも、夜の帳が降り始めたシュテファン教会で再会し、ともにシェーンブルン宮殿を見に行った、名も知らぬあの男は、いまどこでどうしているのだろう。