★ツクツクボウシに起こされる

 ツクツクボウシが嫌いだ。

 もちろん、その鳴き声が「宿題せーよ」に聞こえるからである。と書いていると、今また鳴きだした。
 朝起きてからはアブラゼミばかりだったのに。

 夏は暑いから嫌いで、より暑くするアブラゼミも嫌いだが、ツクツクボウシの鳴き声にはどこか寂寥感も漂う。

 今年は聞いたことがなかったので、うまくいけば聞かないまま出国できるかと思っていたのに、今日はツクツクボウシに起こされた。1日のことで・・・

 昨夜寝る前に温度計を見たら、なんと26℃台だった。いつ以来かわからないが、最近ついぞ見たことのない温度だ。新幹線を止めた大雨の影響もあろう。

 毎日のように雷雨が降り、一雨ごとに夏が去って行く。

 嫌いな夏が去っていくというのに、こうしてその後ろ姿を見送っていると、なんだか妙に名残惜しく感じられる。

 宿題をせねばならないから、学校が始まるから、ではない。

 もうぼくは(たぶん)大人になったし、とりあえずの「宿題」は終わらせてから休暇に入る。だからツクツクボウシが鳴き始めるまで仕事をしているのだ(たとえ終わりのない宿題がずっと目の前にぶら下がり続けているにしても)。

 宿題や学校を抜きにして去りゆく夏を惜しむのは、おそらく初めての経験だ。

 ヨーロッパに着いたら、夏はおそらく、もう終わってしまっている。