●子育ての術(すべ)

 寒風吹きすさぶ日に自転車で外に出て、初めての中華料理屋でランチ。「創作料理」とか「創作旬菜」とか書いてあって、ちょっと高級路線なのかと思った。

 入ってみると、若い男の料理人と初老の女性。2人でやっている店にしては広い。

 料理は何ということもなく、店の名前や幟には負けている感じ。
 (後記:この2週間後にはもう店がなくなっていたらしい)

 途中、赤ん坊を抱いた若い女性が入ってきた。料理人は「いらっしゃいませ」というが、ウェイトレスの初老女性の対応は違った。
 「あんた、もう、何してんのん? こんな寒い日に連れ出して」
という感じである。どうやら親子らしい。顔も似ている。

 以降、紛らわしいので、祖母・母親・子どもとする。

 母親は何も注文しなかったが、祖母がご飯やら小鉢やらを適当に並べる。中華粥が売り物の店らしいので、そういうのもあったかもしれない。
 料理人は無関心に見える。

 そのうち、子どもが泣き出した。母親はひらすら「うるさい、うるさい」と言っている。

 「うるさい」「うるさいって」「うるさい、もう」「う・る・さ・い」「静かにしぃ」

 そんなにきつい言い方ではないにせよ・・・

 よちよち歩いてはいたが、意味のある言葉をひとことも発しない子どもである。おむつだってとれていない。1歳の前半かなという気がした。2歳になっていないのはたぶん確実だ。

 そんな赤ちゃんとも言えるような子どもが泣き出したとき、母親は「うるさい、うるさい」と注意?するものなのだろうか。

 どう考えても、「よしよし、よしよし」と抱っこして、かける言葉も「どうしたの?」とかであるべきではないか。たとえ返事はできなくても。

 隣の席に座っていた私に気を遣って、「うるさい」と叱っていた?可能性は否定できない。だが、私がいなかったら「よしよし」になっていただろうか。

 祖母が何も口を挟まないところをみると、そうではないという気がする。もしかしたら、この母親も、言葉もしゃべれぬうちから「うるさい、うるさい」と言われて育ったのかもしれない。
 祖母はしかし、「こんな寒い日にこんな幼い子を外に連れ出すべきではない」というような人ではある。
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 核家族化に引き続く少子化で「子育てする親戚や他人」を身近に見たことがない人が増えている。
 学校ではもちろん子育ては教えてくれないし、実際に子どもができてからも周囲に見本は少ない。若い母親や父親を責めたりその振る舞いにあきれたりするだけでなく、さまざまな方策を通じて子育ての術(すべ)を習得・学習できるように工夫せねばなるまい。
 「母親学級」などばかりでなく、たとえば、テレビドラマにも子育てシーンを多く描くとか。

 もっとも、ケータイとゲームに夢中で、テレビもあまり見ないのかもしれないけれど。