◆奇っ怪な目覚まし時計

 昨夜、確かに、腕時計の時刻と目覚まし時計の時刻は一致していた。23時23分。覚えやすかったので時刻まで覚えている。
 7時45分に目覚ましをセットして就寝。

 夜中まで酒を飲んで中庭で騒いでいる連中の声がうるさい。よほど、窓を開けて、Be quiet, idiots ! とでも叫ぼうかと思った。

 ときおり肩の痛む、浅い眠り。2時46分にはトイレにも起きた。さすがにバカどもも眠ったようで、静かだ。

 明け方になると、奇妙な鳴き声。いろんな鳥がいるようなので、多分鳥なのだろうと思う。

 6時45分に電話で起こされる。今日はスロースタートのはずなので、仕事仲間からこんな時間にかかってくるとは思えない。いずれにせよ、ベッドから這い出して隣の部屋の電話に辿り着く前に切れてしまった。たぶん間違い電話だろう。

 もともと質の悪い眠りを中断されてしまったが、あと1時間眠らなくては・・・

 だが、眠れないでいるうちにまた電話がかかってきた。7時15分。今度は間に合うかと思ったが、ちょうど受話器を取ったころに切れてしまった。
 電話線のプラグを抜いて残り30分だけ寝ようとしたが、観念して起きることにする。遮光カーテンを通して入ってくる光ももう明るい。

 それにしても、電話はだれからなんだろう? また間違い電話か、それとも、何か緊急事態を告げる日本からの電話なのだろうか。ちょっと気になり始めた。

 顔を洗って洗面所から出てくると、備え付けのベッドサイドの時計が9時16分と表示している。一瞬、えっ?と思ったが、どうせそっちが狂ってるんだろうと思っていた。

 ところが、隣の部屋の机の上に置いた腕時計は9時18分を指している。パソコンを開けて時計を見ると、7時18分。日本時間のままにしてあるから、腕時計の時刻と一致する。

 ということは、目覚ましが2時間遅れているのだ。しかも、日本時間にぴったり合っているらしい。

 昨日の朝は、こちらの時間になっていた。夕べも確認してから寝た。すなわち、夜中の間に電波を受信して、日本時間に修正されたに違いない。電波時計なのだ。

 しかし一体、どこのどんな電波を?
 ここは日本から8000km近く離れたオーストラリアの首都なのだ。

 試しに電波を受信しようとしてもやはりできなかったが、そういえば、今は消えているパラボラアンテナのマークが、今朝は確かについていた。

 遠い昔、ワライカセミの声で有名なオーストラリアのラジオ放送を聞くために短波ラジオの周波数を慎重に合わせたことがある。自分が聞けたのかどうか記憶もおぼろげなのだが、日本でも聞けたのは確かだった。
 ということは、夜、電離層の状態がいいとかなんとかそういう理由で、前の晩は受け取れなかった電波を、昨夜は受け取ることができたということなのだろうか。
 この夏のアメリカでは、こんな奇っ怪なことは起こらなかったけれど。

 あ、それに、腕時計も電波時計だ。こっちは感度が悪いのだろうか・・・

 そうではない。腕時計には時差を設定している。仮に電波を受け取っても、日本時間に戻ったりはしないようになっているのだ。
 ___

 電話はやはり仕事仲間からのものだった。集合時間にはなんとか間に合いそうだ。

 ・・・と思っていたら、別のホテルに泊まっていた仲間が2度寝してしまって、30分遅れるとの電話がまたあった。こちらもその方が都合がいい。
 ___

 今夜目覚ましが電波を受信しないように設定できるのだろうか。安物の単純な時計なので、説明書も持っていない。そもそもそんなものがあったかどうかも覚えていない。

 いずれにせよ、はるか日本からの電波を受け取って時刻を合わせたのだとしたら、なんともけなげな時計である。便利なはずの文明の利器に、予想されたような落とし穴があったとしても。