★Over the Pacific vol. 1 それぞれの生き方?

 最後のホテル。

 往復とも、空港から無料で送迎してくれるバンを使った。

 行きは、ちょっとキアヌ・リーブスを思わせるハードボイルドなアジア人で、面長の鋭い顔に無精髭、湾曲した真っ黒なサングラスでびしっと決めていてニコリともしない。そういえば、服装も白黒だった。かっこいいと言えばかっこいい。年齢は20代後半か。

 運転席の後ろの壁には、Thank you for your tips. という文字とスマイルマークが書かれた紙がセロテープで留めてあるのだが、これだけ無愛想だと、チップをあげようかという感じにはちょっとならない。
 先方ももらうつもりはないのか、ホテルの前でカバンをおろしてくれた時も、そんなものを渡すとか受け取るとかいう隙を与えないくらいクールだった。
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 帰りは、会うなり満面の笑みで Goooood Morrrrrniiiiiiiing. という感じの大柄な黒人。40代ぐらいか。やさしくて暖かみのある人柄を思わせ、この仕事を楽しんでいるように見える。はやり白黒っぽい服装だが、オシャレなベストを着こなしていて、金色の使い方がうまい。

 おしゃべりというのではないけれど、説明(もう一つホテルに寄ってから空港に向かうとか、国際線の出発は4つ目のストップだとか)も親切だし、まだここはピックアップするところなので、Don't leave me. だとか、ときおりジョークも混じる。
 止まるところが多くてごめんなさいとか Thank you for your patience. とかも欠かさない。最後の方では BGM にあわせて鼻歌まで歌い出した。

 同じバンなので同じ tips の貼り紙があるが、この人なら確かにチップをあげたくなる感じだった。

 残念ながら、1ドル札が1枚しかなかったので、それだけ渡す。昨日のクールガイと違って、チップを受け取るタイミングも上手に作る。
 渡すと、おきまりの挨拶(でも心がこもっているように感じる)の後に、握手を求められた。何だか、1ドルでは申し訳ないような気になる。
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 仕事というのがお金をもらうための行動だとすれば、後者の方が理にかなっているのは明らかだ。それに、本気か演技かはわからないが、どうせやるなら楽しくやった方がいいじゃないかとも思う。うわべだけでも楽しくやっているうちに、本当に楽しくなってくるかもしれない。

 でも一方で、「思ったより遠いなあ。一体どこへ連れて行かれるんだろう」(途中で何も言わずにバスを止めて降りたり、広い道でUターンしたりするのだ)という不安を抱えている客を乗せ、無言のまま隙のない動きをするクールガイが、どうしてああいうふうに振る舞っているのだろうかとちょっと気になる。もう少し愛想よくするだけで、収入が大きく変わってくることぐらいは彼にもわかっているはずだ。

 確かに、意地悪な見方をすれば、帰りの黒人は、多くのチップを集めることを目的に行動様式を洗練させていっただけだということも考えられる。まあ、それだって才能と努力のたまものだとは思うけれど。

 「おい、ヤン、お前は今日、いくらチップをもらったんだい? 俺は55ドルだったよ。お前ももっと稼げるように努力すればいいのに」
 「なあ、マイク、いつも言ってるだろ。俺はそんなことに興味はないんだ。いつまでもこの仕事をやるつもりもない」

 そんな会話が聞こえてきそうな二人だった。