●車の故障、覚え書き

 車はずっと快調に走っていた。

 この旅行が終わるころには10万キロを突破する。そのオドメーターを記念写真に撮ろうとちょっとわくわくしていた。

 購入して9年以上になるが、外観は新車同然である。だがさすがに、長年働いてきたパーツがぜんぶ無事であるとも思えない。何かあっても不思議はないような気はするのだが・・・

Img_9182_32 それにしても突然であった。
 たまたま出くわした、自衛隊のF2戦闘機による急降下爆撃訓練?を見物した後、ラムサール条約登録湿地の仏沼、日本三大霊場の恐山、そして、マグロの一本釣りで有名な本州最北端の大間崎を経由し、白鳥が渡来しているという大湊付近に戻るべく、下北半島を走っていた。
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 あ、白鳥と言えば、往路、新潟の手前で前方すぐ上空を5羽の白鳥が右から左へ飛んでいくのを運転しながら目撃した。白鳥の飛翔は見事である。
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 北国の秋の夕暮れは早い。5時にはほぼ真っ暗になる。もう白鳥には間に合わないかなと思ったころ、見通しのいい直線道路で、突然、車が駆動力を失った。
 何だか「へなへなっ」という感じがしたのを鮮明に覚えている。

 反射的にアクセルを踏むが、車は緩やかに減速するばかりである。タコメーターに目をやると、針がゼロに向かって落ちていくのが見えた。
 急いでギアをニュートラルに入れ、惰性で走りながらハザードをつけて左端に寄せる。ブレーキを踏んで止まったのは(エンジンは止まっていたが、ブレーキはふつうに効いたように記憶している)、ちょうど橋の上のようであった。

 ガソリンはある。水温は適正。再始動を試みると、セルは元気に回り続けるものの、いつまでもエンジンはかからない。
 こんなことが起こるのだろうか?

 苦笑いしつつ、ちょっと途方に暮れる。

 以前、信州を旅行していた時、エアインテーク系のパイプにひびが入り、そこから余分に空気を吸い込んでエンジンの調子が悪かったことがあった。今回もそれかと思い、出る前にガムテープを持って出ようかどうか迷って結局やめたことを少し後悔した。
 いずれにせよ、周囲は真っ暗になってくるし、雨も降っている。自分で何とかする気も失せ、後方に三角表示板を置き、いつかのように自動車保険のロードアシスタントに連絡することにする。

 でも、いったいここはどこなんだ?

 幸い、エンジンがかからない以外は車は快調(笑)である。イグニッションをオンにしてカーナビをつけ、位置を細かくメモする。保険会社のカードを取り出すと、そこには自分の筆跡で相手に伝えるべき情報がメモしてあった。前回やや手間取った教訓から、次回に備えて準備していたのだ。そんなことは忘れていたが、自分の用意周到さに感謝する。

 レッカー車に来てもらっても、どこへ運んでもらえばいいのかわからない。そもそも、こんなところに私の車のディーラーがあるとも思えない。とにかく、まずは大阪の購入店に連絡して、近辺のディーラーを教えてもらうことからはじめた。

 滅多に使わない携帯電話をいろいろ駆使していると、電池マークが一つ減る。念のために持ってきた充電器が初めてその威力を発揮した。
 ほんと、こういうときって、ケイタイが生命線である。

 私の車を扱っているディーラーは、ここから車で3時間!かかるという。レッカー車に積み込んだのが6時ごろだから、着くころには9時になってしまった計算だ。
 それでは間に合わないということで、最終的に紹介されたディーラーは、結局、故障地点からすぐのところだった。だが、トヨタカローラの店であり、かなり待たされた挙げ句、原因すらも不明と告げられる。

 パイプにガムテープでも巻いて応急処置すれば旅に復帰できるのではないかとひそかに甘く見ていた。
 それどころではない。2〜3日経っても直せる見込みはないという。

 居場所と足を一気に失い、膨大な荷物を抱えて下北の夜に放り出され、いったい私はこれからどうすればいいというのか。
 動かない車をどうするのかも含め、すぐには思考がまとまらない。再度保険会社に連絡するなどして検討した結果、最終的には車をここに置いたまま近辺で一泊し、翌日一日かけて鉄道で帰宅することにした。

 ホテルはどこも満室で、1万円の部屋しか取れないという。何でもない平日の夜に、なんということ・・・ ここは東京か?
 まあ、それはたぶん、保険会社が支払ってくれそうなので、むしろラッキーかもしれない(ビジネスホテルクラスでって、何度も念を押されたんだけど)。

 ともかく、荷物をまとめてディーラーを辞去し、ホテルまで送っていただくことになる。

 車に満載の荷物を、歩いて帰れるようにまとめるのがまた一苦労だ。ふだんから車に積んでいるものの中にも、残しては行けないものが多い。まったく、もう・・・

 ホテルに着いたのは7時半ごろであった。

 備忘録:車中に残してきたもの

・自転車
・その下に敷いた毛布
・寝袋
・ガイドブックや地図数冊
・緑のコート
・靴2足
・CD20枚ぐらい
・AC電源装置
・折りたたみ傘

 まだ何かあるかもしれないがそんなところかなあ・・・

(後記)
・ドライバーセット
・三脚