●女性機長と『沈まぬ太陽』

 パイロット候補生として採用されながら夢を絶たれつつある人たちの絶望感に思いを致した翌日、国内の旅客機に初の女性機長が誕生するというニュースを読んだ(朝日新聞)。

 藤有里(ふじ・あり)さん、42歳。

 身長が155cmで、航空大学校の入学基準(当時)に8cm足りなかったそうである。今だって、158cm以上でなければ入学できない

 航空大学校の受験資格すらなく、門前払いを食った(今でも食う)人が旅客機の機長になる。やはり門戸はひろく開けておくべきだ。次年度の募集時には155cm以下にすることを検討してほしい。

 夢を追って渡米、アメリカの免許を取り、1999年、海外免許を持つパイロットの採用・養成を始めていたJEX(JAL Express)の試験に合格して、キャリアを歩み始めたという。当時既に31歳。

 それまではなんと、「派遣社員などをして両親に学費を返済しながら機会を待った」そうである。

 強い意志が時の流れも味方につけたのだろう。
 そんな経歴の身長155cmの女性がパイロットになるなど、たとえば1996年までならまったく考えられもしなかったと思う。
 年齢的にも間に合ううちに、世の中が動いたのだ。

 もちろん、諸手を挙げて祝福したいが、実際、身長155cmで、ラダー(方向舵)に足が届くのだろうか。セスナ172でさえ、その身長ではラダーを操作することがほとんど不可能に近いのではないかと思う。
 アメリカ製のジェット旅客機(JEXが運行しているのは、ボーイング737マクドネル・ダグラスMD-81だけだ=今調べました)のコクピットが、セスナ172より格段に小さいとは思えない。
 まさか、人並み外れて脚が長いということもあるまい。

 何らかの工夫をしてるのかもしれないが、まあ、そんなことはどうでもよい。ともかく、定期運送用操縦士の資格も取り、機種ごとの機長審査にもパスしたのだ。
 「体格のハンディや女性への偏見など苦労は多かった」という。そうだろう。でも、立派に道を切り開いたのだ。それは、後に続く者のビーコンになる。

 いつか、彼女の操縦する飛行機に乗ってみたい。
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 午後、山崎豊子原作の『沈まぬ太陽』を見た。日本航空がモデルの、事実を再構成したフィクション映画である。

 彼女の小説の映像化作品の例に漏れず、「いい人」と「わるい人」の類型化が極端で、人物の造形に深みを欠くきらいはあるものの、冒頭から涙を流すほど引き込まれていった。
 息子は学校、家内は仕事で家にいないので、だれはばかることもない。
 長い長い映画にも退屈しない(が、DVDにリアルタイムで10分の休憩を入れる必要があるのだろうか。「席にお戻りください」と言われても・・・)。

 「沈まぬ太陽」とは日本航空の比喩だろうと勝手に想像していたのだが(そしてそれは別に外れてはいないと思うが)、主人公の恩地が2度にわたって赴任させられたケニアの大地を照らすそれであるとは夢にも思わなかった。

 アフリカにはまだ行ったことがない。ユーラシア大陸を横断してヨーロッパで一息ついたら、その続きはアフリカ大陸縦断としゃれこんでみようかと、ちょっと考えた。

沈まぬ太陽, 2009 JAPAN)