★『オカッパリ』禁止

 雨にもめげず、斑尾高原の希望湖(のぞみこ)周回トレイルを歩いていたときだ。

 立ち入り禁止の看板があり、そこに「この下のエリアは、危険防止・フィールド保護のため、『オカッパリ』を禁止します」と書いてあった。

 家族3人、「オカッパリ」の意味について議論を闘わせたが、どうにもわからない。わからないものを禁止されても守りようがないわけだが、とりあえず立ち入らなければいいのだろうと、行動上の結論は得られた。

 だが気になる。

 その時は、この辺で使われている地域語(方言)なのだろうと思った。なのに、観光客にも通用する一般的な言葉だと思っているんだろう。まあ、全国的によくあることだ・・・という認識だった。

 今思えば、二重カギ括弧でくくられていたこと、カタカナで書かれていたことなどヒントもあるのだが、その時はそれ以外に考えられなかった。

 この辺の人に聞けばだれでもわかるはずだ。ちょうど昼食を食べたので、例の店のご婦人にでも聞いてみようかなと思ったのだが、聞きそびれた(聞いてみればよかった)。

 仕方ない、宿に帰ったらネットで調べようと思っていてその日は忘れ、二日後ぐらいに調べてわかった。
 パソコンにはいろんな辞書も入っているのだが、辞書に載っていないことは明白に思えた(後日調べたら、実際、載っていなかった)。

 意味は、「船釣り」に対する「陸釣り」らしい。船上からではなく、陸上から行う釣りのことのようだ。

 「おかっぱり」の「おか」はわかるが、「はり」の方は何かわからない。「張り」なのか「針」なのか。まあ、それはここではどうでもいい。

 結局のところ、地域語(方言)ではなく、いわばテクニカルタームだったということになる。予想外のことで、かなり驚いた。
 考えてみれば、希望湖が釣りで有名なことはその時点で知っていたのだから、釣り用語かもしれないと思いついても不思議ではなかった。だが、露ほどもそう考えなかった。

 「自分たちの言葉が一般の観光客にも通じると思い込んで看板を設置したのだろう」というのは(ほぼ)言いがかりであった。
 「斑尾高原観光協会」のみなさま、申し訳ありません。
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 ふだんから、なるべく物事を多面的に見て、かつ、早急な判断を下さないように心がけているつもりだ。

 だが、今回のように、確たる根拠もなく、これまでの経験と思い込みで決めつけてしまうこともある。

 今後は、『グレート・ギャツビー』の語り手であるキャラウェイのように、あるいは『ノルウェイの森』の主人公であるワタナベのように、「何ごとによらずものごとをすぐに決めつけ」ず、「あらゆる物事と自分のあいだにしかるべき距離を置くこと」を心がけねばならないと改めて思った。