◆おいしい魚屋
海育ちだ。
歩いて5分以内の魚屋にも、捕れたばかりの魚が生きたまま並ぶ。死んだ魚は買わない、というぐらいの勢いだ。
浜値で仕入れた家族経営の小売店が売るので値段も安い。
それがふつうだと思って育った。
ところが、大阪郊外に移って二十余年、おいしい魚を買って食べることはほぼ不可能になってしまっていた。
いや、もちろん、おいしい魚屋を探してわざわざ遠くまで買いに行けばあるのだろうが、食に対するそこまでの情熱はない。豊中駅前にいい店があることは、ときどき行く寿司屋のご主人に聞いていたのだが、結局行ったことはない。
もう一つ、よくお昼を食べに行く寿司屋のご主人から最近別の店を聞いた。その店はときどき買い物に行く商店街の中にあるので、試しに寄ってみた。
ごくごく小さい、(たぶん)家族経営の目立たない魚屋だ。
と思っていると、まず、立派なノドグロが目を惹いた。丸ごと1尾を見るのは初めてだし、へぎには「幻の魚」とまで書いてある。聞いてみると、この店でもそうしょっちゅうは入らないらしい。
大きなズワイガニも気になる。先日カニすきにして食べたのよりも立派で、しかも値段はかなり安い。これはいいかも。
ノドグロにしようかカニすきにしようかと考えていると、横にある太刀魚が気になってきた。こんな立派なのは見たことがないという感じのが、2つに切られて売られている。
ノドグロは刺身にできないが、太刀魚はできるという。
その言葉に背中を押され、太刀魚の下半身の方を買い、焼き魚にする切り身を3つ取ってもらって、尻尾の方を刺身にしてもらう。
店の人は、「切り身を3つも取って残りを刺身? そんなに取れるかな」という感じだったが、われわれにとっては十分な量が取れた。
ちょっと高いが、3人分だと思えば驚くほどではない。
あと、少し気になっていた、カンパチの刺身を買う。そっちは400円と安いのだ。
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夕食に、まずカンパチを食べて驚いた。この二十余年、この近辺で買って食べた魚の中で一番おいしかったと断言できる。それが400円なのだ。
こんな店の横を長年素通りしていたとは・・・
太刀魚の方も、刺身は身が締まり、焼き魚は脂がのっておいしかった。何より、身がたっぷりついている。骨にへばりついた、あるかなきかの身を食べさせられる太刀魚とは別の魚のようである。
そうしばしばは行けないが、これからはここで魚を買おうと思う。
もっと早く見つけておけばと思わないでもないが、こういうことにもやはり頃合いというものがあるのだろう。過去を嘆くよりも、おいしい魚を食べられるようになったことの方に目を向けたい。