■天の川

 郊外とはいえ大都市近郊に暮らしていると、星を見ることはほとんどない。条件が良くてさえ、1等星が見えるかどうかという程度だ。日常的に見えるのは、金星だの木星だの土星だの、マイナス等級の惑星だけだ。

 満天の星、というのを見たことは何度かある。それでも、思い出せるのは、大学生のころの兵庫県中部、15年ほど前のアメリカの中西部ぐらいだ。あ、同じく15年前の兵庫県南西部というのがあった。西はりま天文台だ。

 天の川、というのをはっきり見た記憶は、もしかするとないかもしれない。幼いころに見たような気がする程度だ。最近は、天の川なんてほんとにあるんだろうかと思うようになっていた。

 ・・・この夏、知床峠から見た天の川はすごかった。羅臼岳山頂から噴火した煙が大空を真っ二つに割るように、ちょうど天頂を通って反対側の地平線まで続いているように見える。もちろん、煙ではなく星の集まりだ。
 英語で the Milky Way というらしいが、ミルクを流したとも、煙がたなびいているとも、もちろん、川が流れているとも見える壮大な光景だった。

 視力が悪くて、ふだんは眼鏡を外すと星なんて一つも見えないほどだ。驚いたのは、その 0.1 もないような裸眼視力で、天の川がはっきりとわかることだ。眼鏡なしで天の川が見えるなんて・・・
 ただ、寒さにはちょっと参った。8月なんだけど。

 新月の夜、街の明かりをすべて消せば、ここ大阪でも裸眼で天の川が見えるのだろうか。とてもそんな気がしない。だが、たぶん、見えるのだろう。空気は知床ほど澄んではいないにしても。

 いずれにせよ、見えない天の川は、今日も頭上にあるのだ。流れ星も、見えないだけで、今日もいくつも空を流れている。