■小型機に横風

 iyotaさんから横風についてのご質問をいただいた。以前にも少し書いたことがある(その1 その2)が、いい機会なので自分なりにまとめてみようと思う。

 飛行機の動きは周囲の空気を基準としている。固定した地面を基準とした車などと大きく違うのはこの点だ。

 安定した空気の固まりがあり、その真ん中に飛行機がいると仮定しよう。仮に飛行機が止まっていても、空気が動けば(風だ)その分だけ動いたことになる。空中に浮かんだ風船の中で止まっている飛行機を思い浮かべてほしい。風船が風に流されれば飛行機も同じだけ動く。
 簡単に言えば、飛行機の地面に対する移動は、空気の移動ベクトルと飛行機自体の移動ベクトルの合成ベクトルによって表されるということだ(すみません、説明が面倒なので逃げました ^^;)

 したがって、時速20キロで移動中の空気の中を、「その空気に対して」時速200キロで飛んでいる飛行機は、空気の移動方向が飛行機の移動方向と同じ(追い風)なら「地面に対して」220キロで、逆方向(向かい風)なら180キロで飛んでいることになる。

 さて、問題の横風だ。ちょっと考えてみると、横風といっても、離着陸時と巡航時、また、コンスタントな横風と突発的なそれとで様子が違ってくることがわかる。

 まず、コンスタントな横風。巡航中であれば、地面を無視すれば!何の問題もない。訓練で飛んでいた夏の南カリフォルニアの午後が、そういう状態だった。強い西風がコンスタントに吹いているが、大気自体は安定しているので、飛行機は揺れない。飛行機自体が移動しようとしている速度・方向と、空気のそれとが合成された動きをするだけだ。真横からの風であれば、直角三角形の斜辺方向へ飛んでいることになる。まっすぐ飛びたければ、機種を風が吹いてくる方向へ向け、合成ベクトルが斜めにならないようにする。
 離着陸時は、これがとても重要だ。機種を滑走路に向けていても、風によって飛行機が斜めに流されたんでは、危険きわまりない。巡航中なら、別に風に流されてもどうということはないのだが、離着陸時は命に関わる。もちろん、巡航中でも意図した方向にまっすぐ飛ぶことは重要には違いないのだが、離着陸時には「絶対に」そうしなければならない。
 実際のところ、離陸時は、上がってしまってから流される分にはどうということはない(操縦が下手だとは言われる)のだが、着陸時は、流された状態のまま滑走路に降りたりするととんでもないことになる。

 次に、突発的な横風。レベルはいろいろあるが、関西の低い空ではコンスタントな風の方が珍しい。つまり、気流が安定していない(ただし海上では比較的安定している)。この場合、iyotaさんへのコメントにも書いたとおり、飛行機ごと取られる。左から風が来れば、機は右に傾く。操縦桿は取られないが、水平に戻すためには左に倒さなければならない。その意味では操作は必要になる。
 実際には、上げられたり下げられたりも加わって、いわゆる「揺れる」状態になる。家族は「気分が悪くなる」といって、あまり乗ってくれなくなった(笑)
 離着陸時は大変だ。そういう気まぐれな風にうまく対処して、常に機を滑走路の中心線上に保つ必要がある。そのためには、意図的に機種を斜めに向けたり、一方の翼を下げたりするのだが、風に合わせて細かい操作が要求される。飛行歴40年のベテランパイロットをして、「やっぱり一番難しいのは着陸ですね」と言わしめる所以だ。

 横風だと操縦も難しくて危険だし、追い風だと滑走距離が伸びるので、管制官パイロットはできるだけ風上に向かって離着陸させようとする。通常使う滑走路とは別に横風用の滑走路が用意されていたり、同じ滑走路を使っていても逆方向から離着陸したりするのはそれが理由だ。

 機体重量が軽く速度も遅い小型機は、ちょっとした風の動きにも非常に敏感だ。書いていて改めて気分が引き締まった。安全運航を心がけようと思う。