■不思議の国

 アイスランドには不思議な謎が多い。

 EU加盟の北欧国家だし(訂正:アイスランドシェンゲン協定に加盟していて出入国管理なしに多くのヨーロッパ諸国と往来できますが、EUには未加盟です)、旅行した実感からも間違いなく先進国だと思うのだが、それをたった33万人の人口が支えているのが理解できない。そのことは既に書いた。

 やはりというか、さすがに道路整備は日本のようにはいかないようで、まず未舗装路がすごく多いし、立派な橋やトンネルはほとんどない。3000km近くを走って、トンネルはたった3つで、100mを超えるものは1つだけであった。
(後記:その後、レイキャビクの北にある大きなフィヨルドをショートカットする海底トンネルを通った。長さは5km強の有料トンネルだが、対面通行だった。)

 高架道路はほぼ存在しないし、斜張橋や吊り橋なんかもほとんどない。あってもごく短いものだけだ。道路整備に無尽蔵ともいえるようなお金を使える日本とは、やはり違う。
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 国土全体に、畑が見当たらない。

 今日の夕食は、「地元で取れた野菜をふんだんに使ったサラダやスープ」を含んでいたので、畑がまったくないわけではないのだろうが、まったくといっていいほど見かけなかった。
 代わりにあるのは牧草地である。羊や牛や馬が放牧されている。特に羊の数は多い。間違いなく、人口より何倍も多いに違いない。

 不思議なのは、(氷河はもちろんだが)溶岩地帯を除いてどこにでも羊がいることだ。民家なんて何十キロもないような場所でも、羊が草を食んでいる。最初のころは、脱走羊とか野良羊とか「ストレイシープ」、まさかの Wild Sheep なのかと思った。
 だが、「なぜこんなところにまで」というような場所にいた羊も耳にタグを付けていたし、おそらくはすべてだれかの所有なのだろうと思う。

 でも、そうやってほったらかしにしている羊を、どうやって集めたり利用したりするのだろう。牧羊犬に類するものも見かけなかったし、ヨーロッパ諸国でよく見かける、羊を集めたり追ったりしている姿もまったく見なかった。
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 田舎へ行くと、集落がほとんどない。

 多くは一軒家か、せいぜい3〜4軒までの民家がぽつりぽつりと、短いときには1kmくらいの間隔で、長いときには100km以上隔たって建っている。
 驚くのは、民家一軒に教会一つというような場所がいくつもあることだ。どういう歴史を経てそうなったのか、あるいは家を一軒建てると教会も一つ建てなければいけないのかわからないが、ものすごく贅沢というか無駄な気がする。だいたい、牧師とかもどうなってるんだろう。

 そして、近くの集落から遠く離れたそういった家をどうやって建てるのかがまたわからない。たとえば、もっとも近い村から100km離れたところにある家を、どういう手順で建てるのか。そもそも、その100km離れた村すら、人口は数百人とかで、建築業者なんてないと思うんだけど。

 さらに、そういう家にはたいてい立派な車がある。車がなければ何もできないしどこへも行けないような場所なのだから、それはまあ当然かもしれない。でも、たとえ車があっても、買い物なんかにどこまで出かけているのかと考えると、ちょっと気が遠くなる。まあ週に一回、往復200kmドライブとかをするのかと無理矢理納得するしかない。

 だがそれ以前に、どうしてそんな人里離れた家に住む人が、車を買える経済力を持っているのかも謎である。収入源はその辺に散らばっている羊なのだろうか。ほかに生業が考えられないのだが、羊はそんなに儲かるのか。儲かるにしても、放牧している羊をいつ集めるのか。そして、何をどのように出荷するのか。羊毛と肉?

 今こうしてこの文章を書いているゲストハウスも、未舗装路を走った先にある「大草原の小さな家」という感じで、近隣に住宅はまったくない。
 ここはまあ宿泊施設なので、日々いろんなゲストが来るわけなのだが、たとえばフィヨルドの斜面に貼り付いているような一軒家に住む人たちは、通常の生活を家族だけで完結させ、ふだんは他人との交流がほとんどないのだろうか。学校なんかはどうしてるんだろう、近くに病院とかはあるのだろうか(ないよね)。
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 実際のところ、アイスランドの人口の6割以上が首都のレイキャビクとその近郊に住んでいるということだから、そちらの方がむしろ「一般的」なアイスランドなのかもしれない。
 私がこれまで見た中で、明白に街と言えるのはアークレイリだけだが、このアイスランド第2の都市ですら、人口は2万人に満たず、日本では市にすらなれない大きさだ。

 私が見てきた他の集落や、集落ですらない一軒家や数軒家が、いったいどのようにして先進国的生活を送れているのか・・・
 日本に帰ったら少し調べてみたいと思っている。