●バイクはバックができません

 先日バイクで出かけたときのこと。田舎道を快調に走っていると、前の車がいきなり停止した。

 ウィンカーを出すでもなく、左に寄るわけでもなく、車線の中央で突然に。
 もちろん、信号も標識もないし、交差点でもない。

 幸いというか、いつも車間距離はきちんと取っているので追突するとかいうことはなかったが、それでも停車がいきなりかつ急ブレーキ気味だったので、こちらもちょっと焦った。
 が、まあ、特に問題はなく、急停止を避けるため、相手の車の後ろ1m少しくらいのところまでブレーキをかけ続けてバイクを止めた。

 止まるのと前後して、ホーンを鳴らした。
 「危ないじゃないか」という気持ちもあったが、こちらの存在を把握していないのではないかという危惧があったからだ。

 二呼吸ほど待っても動こうとしないので、「車間が狭くてちょっと苦しいけど、右側に出るしかないか」と考え始めたその時、あろうことか、その車がバックしてきた。

 これ以上車間が詰まったら右へ出ることも不可能になる。それ以上に、バックされたらすぐにぶつかってしまう。

 今度は思いっきり、というか、必死でホーンを鳴らした。いくらがんばっても音量は変わらないのだが、鳴らしっぱなしにしたことでなんとか状況がわかってもらえたのだろう、バックをやめた後、ややあって、ようやく少し車を前に出してくれ、右側から抜くことができた。

 それにしても・・・

 ウィンカーも出さず、左にも寄らず、車線の真ん中で突然止まり、あまつさえ、後ろにバイクがいるのにバックしてくるとは・・・

 なんかもう、常人の域を超えた無茶苦茶な運転である。

 ・・・と思った後、もしかして、バイクがバックできないのを知らないのではないかと思いあたった。

 いや、仮にバックできるとしても、それを後ろの車両に強要するようなドライバーは言語道断なのだが、自分が下がれば後ろのバイクも下がってくれると思っていた可能性はある。

 声を大にして言いたい。「バイクはバックができません」 
(ごく稀に、バックギアのついてるバイクがないわけではありませんが)
 ___

 この話を運転歴2年半の息子にすると「えっ? バイクってバックできへんの?」という。

 「あたりまえや。自転車もバックできへんやろ」というと納得していたが、やっぱり乗ったことのない奴にはわからないのかもしれない。

 バイクも自転車と同じで、地面に足をつけて漕げばバックできないことはない。だが、例えば私のバイクは車両重量が二百キロ以上あるのである。平地でもけっこう大変だし、ちょっとでも下り坂ならぜんぜん不可能だ。

 ドライバーは「バイクはバックできない」ことをぜひ肝に銘じてほしい。

 それにしても・・・

 運転していたのは初老くらいのドライバーだった。おそらくはベテランのはずだ。

 どうすればあれほど自分勝手で無自覚な運転ができるようになるのだろうか。