●立杭焼というか丹波焼の急須

 近年、家人の趣味でときどき美術館とかに出かけることがある。つきあいというか運転手というか、まあそんなところだ。
 入館料がもったいないとは思うものの、本当に運転手だけというのもなんなので、いちおう入って「鑑賞」はするのだが、豚に真珠というか猫に小判というか割れ鍋に綴じ蓋というか(違うか)、ほとんどの場合、よくわからない。
 「芸術作品」の前で場違いな笑いを抑えられなくなったりして気も遣う(だっておかしいんだもの)。

 今回は「兵庫陶芸美術館」。朝日新聞でやたらに宣伝しているのに家人が騙されたのだが、やはりというか、主催者に朝日も入った特別展であった。

 ものすごい赤字運営だとは思うものの(入る前に、「入館料を1万円に値上げして、これまでと同じくらいの入館者がいるとしても、運営するのは厳しいんじゃないかな?」とか言っていたのだが、運営費を調べてみると、実際そんな感じであった。実際の入館料は、iPhoneの割引き画面提示で800円)、いい感じの美術館であった。
 丹波の山懐に抱かれた、自然と調和するデザイン・・・というような、安っぽい不動産広告の文句が似合いそうなおしゃれな建築空間(いえ、悪口ではありません)。
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 それはそれとして、ここにこういう物ができたのは(なんと2005年と新しい)、日本六古窯のひとつ、丹波立杭焼の地元だからである。

 「立杭焼ぐい呑み」というのをよく聞く気がするのだが、それがこんなところにあるのは知らなかった。今の所在地で言うと、兵庫県篠山市今田町の上立杭と下立杭あたり。
  信楽になら何度も行ったことがあるし、備前焼とか九谷焼とか伊万里焼とかそんなのまでどこにあるか知っている(しかもすべて行ったことがある)のに、こんなに近くの立杭焼を知らなかったとは・・・

 まあ、瀬戸物(というか陶器)にはほとんど興味はないんだけれど、それにしても。

 ただ、だいぶ前から急須を買いたいと思っていたので、美術館のあと、めぼしい窯元をいくつか回ることにした。

 幸いというべきだろう、5箇所訪れた窯のうち、1つでいいのを見つけた。もうほぼこれにしようと決めてから、念のため、2人ともが気に入ったカップを作っている窯元にも行ったのだが、急須の方は、デザインはぱっと目を引くものの、(予想される)機能にちょっと不安があった。

 湯飲みやカップなんかと違い(というと語弊があるが)、急須は機能が非常に重要である。

 そのことをよくご承知だからだろう、お茶の出も切れも申し分ない旨の説明を書いた紙が貼ってあった。他の窯元では見なかったし、実際、他の店のはその点に注意を払った設計?に見えなかった。

 伝統的?な形をした急須の方は、持ち手の形状やバランスなんかもよくできている。それでいて、機能一辺倒を排し、デザイン的に見るべきものもある。

 実は、以前北海道で買った急須が機能的に落第で、そのせいでちょっと敏感なのだ。
 かなり前にデパートの銘品展で老舗の急須屋さん?に機能のポイントを教えてもらったことがあるのだが、この窯元のはそのポイントをしっかり押さえている。

 逆に、それらを無視している急須が溢れているのがむしろ不思議な気はするけれど。

 結局、モダンな形と色をしたのを選んだ。やはりというか、茶はスムーズに流れ出て、注ぎ口から垂れたりもしない。
 箱にも能書きにも「丹波焼」とのみあり、立杭焼の文字がないのが不思議だ。買ったのは下立杭にある窯元(まるせ窯=屋号は○の中に「せ」が入っている)だし、丹波焼なんて聞いたこともなかった。

 ともあれ、機能的にかなり問題のある急須でも10年くらい使い続けているのだから、これなら長く愛用できると思う(割らなければ)。
 我々の感覚からすると安い買い物ではないが、とにかく職人の手作りである。手間暇を考えればべらぼうに安いとも言える。

 職人にはあらためて崇敬の念を抱かざるをえない。