◆紅葉を前に ──ナンキンハゼ(ほんとうに)伐採

 今の家に越してきてから15年余が経った。

 勝手に生えてきて大きくなったナンキンハゼは、いろいろ楽しませてくれはしたが維持するのは大変だった。

 あるかなきかの庭のサイズから見れば、何しろ破格の巨木である。高さは2階の屋根を越え、1本で家の南面の半分以上を覆うほど茂っている。
 毎年、剪定にいそしむのだが、切った枝葉の処分にはほとほと閉口した。文字通り、庭を埋め尽くさんばかりになるのである。

 越境して隣家へどんどん伸びていくのも困りものだった。コイツのせいで高枝切り鋏が家に2つもあるのだが、2階のベランダから身を乗り出しても、もやは届かないほどの枝もある。

 もちろん、悪いことばかりではない。

 夏は緑陰を作ってくれるし、虫やら木の実やらを求めて鳥もやってくる。秋は紅葉が見事だ。

 ああ、でもやっぱり、紅葉が終わると大量の落ち葉である・・・
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 築15年になって、家の屋根を塗ったり壁のコーキングを打ち替えたりする必要に迫られている。

 別にナンキンハゼがそのままでも作業はできるようなのだが、これまで毎年どうしようか考えていた背中を押されたのは間違いない。
 諦めて伐採することにした。

 以前、ほとんど伐採と言えるほど、幹だけ残してばっさり剪定したことが何度かあるのだが、次の年にはもう何ごともなかったかのように、また1本で森を形成してしまう。
 何とも生命力の強い木である。

 ほんとうの伐採でも自分で何とかなるかとも思ったのだが、今まで以上に大量に出る枝葉(+幹!)の処分のことを考えると、やはりプロにお願いしが方がいいかと思い、やってもらった。
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 案に相違して、高所作業車に乗って颯爽と現れたインテリ風の植木屋さんAは、素人の「梢から順に」という予想とはまったく違う手順でどんどん作業を進めていく。
 まずは東側に張り出した大枝をバッサリ切断、下で待機している老職人Bがその巨大な塊をつり上げてから慎重に降ろしていく。狭い隙間、張り巡らされた電線、隣家の屋根や車、いずれにもひるまない。

 事前に伺っていたとおり、ものの1時間で切り株だけになってしまった。
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 15年も経つが、勝手に生えてきたナンキンハゼはこの1本だけである。ここ数年は毎年たくさんの実がなっているのに、それが落ちて芽生えたこともない。

 他にもまあ、勝手に生えてきたのは、玄関先の榎(これは以前伐採した)とか庭のピラカンサとか正体不明の柑橘系の幼木(今、アオスジアゲハの幼虫が3匹ついている)とかあるのだが、何といってもナンキンハゼは別格だった。

 今、2階のリビングからすっきり南が見渡せるのも何だか寂しい。

 伐採しなくてもすむほどの庭がある家ならなあ・・・とも思うのだが、思っても詮のないことである。