★禍転じて「たくみの里」

 朝から雨。予報では午後から曇だったのだが、結局のところ、一瞬たりとも止まなかった。
 それどころか、ときおりは滝のように降る。道路の一部は川となって車が浮き上がったように感じる場面も。

 もちろん谷川岳どころではない。

 仕方ないので、宿のパンフで見かけた、「たくみの里」というのに出かけてみることにした。

 行く前から不審に思っていたのだが、こんなところにどうしてこういうものが存在しうるのか。

 藁細工やら竹細工やら革製品やら、木工に陶芸、七宝焼きや和紙・ガラス・お面・人形・ドライフラワー・・・といった職人の工房が旧宿場町に展開し、観光客がそれらを体験できるようにもなっているというのである。
 もちろん、昨今はやりの蕎麦打ち体験も。

 あんまり不思議なので、2〜3軒の工房で由来を聞いてみたのだが、1990年ごろに始まった取り組みだということと、職人には地元の出身者も多いが全国に声をかけて集めたということがわかった。

 あれやこれやを考えると、この地の主産業だった養蚕が斜陽化しはじめた(1995年にはまだ一面桑畑だったという)ことに危機感を覚えた住人たちが、村おこしの一環として始めたのではないかと思う。
 折りからのバブル景気で、いわば「第2の清里」のようなものを意図したのではなかろうか。

 当初はものすごく賑わったのか、その辺は聞けなかったが、なんだかんだと時が流れても、四半世紀を経てまだ寂れていないのは大したものである。
 関西在住ということもあろうが、これまで一切聞いたこともなく、宿にパンフがなければ、そして何より、雨が降らなければ決して行かなかったような場所としては、大ヒットだといっても過言ではない。

 宿場町の面影が残る旧街道筋にはそれなりに由緒ある建物も多く、そのいくつもが工房になっている。見学するだけでも土産物を買うだけでもいいし、実際に体験できるところも多い。
 いくつかの工房がやや遠くに散在気味なのは残念だが、天気がよければ歩いても気持ちがいいし、無料の駐車場があちこちにあって、車で移動すればすぐである。

 こういうところを訪ねる旅行は滅多にしないのだが、そういうタイプの人間がわざわざ出かけてもいいくらいの価値があるのではないかと思った。

 木の繊維と絹糸で織った「布」で作った、元の木目が見える財布、信じられないほど美しいデザインのテーブルナイフ、桑の丸太をくり抜いて作成する漆塗りの急須、の3つが気になり、結局、前の2つを買ってしまった。
 旅先でモノを買うことなどほとんどない私にとっては、相当珍しいことだ。
 もっとも、ナイフの方はこことは関係のないポルトガル製である ^^;

 急須もいまだに気になったままなのだが、惚れたというところまでいかなかったことと、値が張りすぎることがブレーキになった。
 でもやっぱり欲しかったなあ・・・

 ここを訪れた人の多くが、「こんな素敵なところがあるなんてぜんぜん知らなかった。もっと宣伝すればいいのに」という感想を持つという。私も同じことを思った。知らないのは関西在住だからばかりではないらしい。
 (今、ウェブサイトを開くと、「[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています」云々という文言が表示された。真面目に広報を考えているなら、確かにこれはありえないだろう。)

 東京から200km以内。関東からなら十分日帰りできると思う。ぜひお出かけください。