■たった1週間の付き合い

 連休中、仕事以外にもう一つのことをやっていた。

 今さらながら、大型自動二輪車の免許を取ったのである。いや、厳密には教習所を卒業しただけだが、あとは免許をもらいに行くだけだ。

 かれこれ30年近く、大型二輪の免許が欲しかった。
 とはいえ、現実的に考えたことはなく、まあそのうち機会があれば・・・などとのんびりかまえているうちに四半世紀以上経ってしまったことになる。

 そこそこバイクに熱を上げていたころには、大型免許は試験場の「一発試験」で「限定解除」する以外に取る方法がなかった。よくは知らないが、噂によれば合格率は数%で、十数回受検しなければ合格しないという話だった。
 いかにも面倒くさいし、400cc(中型)のバイクならほぼすべての車より動力性能は上だ。「ナナハン」への憧れはあったものの、切実に免許を取得したいというほどの情熱はなかった。

 そうこうするうち、アメリカやドイツなどから外圧がかかって(「特殊な免許制度という非関税障壁でハーレーやBMWが売れない」!)、大型免許も教習所で取れるようになった。調べてみると、1996年のことらしい。
 子どももできて、ちょうど、2台目の400ccを盗まれたころではないだろうか。「この際大型免許を」とは考えもしなかったと記憶している。

 その後しばらくは90ccのスクーターに乗ったりもしていたが、ほどなくバイク自体に乗らなくなった。最後は確か、ちょっといい自転車を買うのと同時期に手放した。
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 その後、バイクのことはほとんど忘れていた。発売される車は気になるが、バイクの方は気にならなくなっていたのがその証拠だ。

 ただ、ときおり、旅先でツーリング中のバイクなんかに出会うとまじまじと見たりすることはあった。
 また、若者のバイク離れに排ガス規制も重なり、いつの間にやら二輪車全体が地盤沈下しているのを知って驚いたりもしていた。

 わたしが免許を取ったころに比べると、二輪車の国内販売台数は80%減、生産台数に至っては90%減ぐらいになっている。
 生産台数はまあ、海外生産が増えたからだとも思えるが、販売台数が1/5って、よくそれで業界自体がなくなってしまわないものだと思う。おそらくは、海外でそれなりに売れているからやっと何とかなっているんだろう。

 そんな中、数年前からふたたび、大型免許が気になりだした。もう20年も経てば(10年ならぜんぜん大丈夫だと思うのだがどうだろう?)、体力的・技術的に免許が取得できなくなるかもしれないことも頭にちらついた。
 人生の逆算を始める年齢に入ったのである。

 調べてみると、教習所の料金は10万円ぐらいであった。当面乗る予定もないのにちょっともったいないし、めんどくさいなあということで、またしばらく忘れていた。

 ところが先日、ホンダが新しい400ccを出すのをたまたまネットで知った。今さら400に乗る気はないが、まったく新しい同様のコンセプトによる700ccのバイクが昨年すでに発売されているらしい。
 しかも、その "New Mid Concept" とやらが、妙にしっくりくるのである。実際、日本ではリターンライダーをターゲットにして商品展開しているようだ。

 ・・・とはいえ買う気はない。
 だが、意識がそちらへ行くと、そろそろ免許を取っておいてもいいかなという気はしてきた。

 改めて近くの教習所のウェブサイトを見たが、やはり10万弱。うーんと唸っていると、京都に5万円台半ばで取れるという教習所を見つけた。しかも、追加料金一切なし! 体力と技術の衰えが気になる身には頼もしい限りである。
 しかも、この4月に教習車両を入れ替えたとかで、まさに "New Mid Concept" の新車が教習車だ。
 京都とはいえ、通学?時間も1時間ほど。これはもう、行くしかあるまい。

 ただ、「最短6日間で卒業」とか書いてあるのだが、まさか。
 そんな宣伝文句をそのまま信じるほど若くない、まあ、5月中に取れればいいや、何となれば今年中でも・・・とか考えていた。

 それが、ほんとうに実質6日で卒業してしまった。行けない日が2日あったので8日間にわたったが、日曜から日曜まで、ゴールデンウィークをフルに使う必要すらなく取れたのである。

 教習中、あっちでもガシャン、こっちでもブォォォン(転んだときにアクセルを捻ってしまうのだ)と若い連中が転倒しているのを横目に、昔取った杵柄、もちろん一度も転倒することなくストレートで卒業してしまった。
 体が硬くて筋力がないわりには上出来である。

 それにしても、たった1週間で片がつくことを30年近く・・・ 教習所で取れるようになってからでも15年以上だ。年を取るはずである。
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 以前、1年以上かけて飛行機の免許を取ったときには手放しで感激・感動したものだが、さすがに1週間ではそれほどのことはない。
 それでも、苦節30年?・・・何とか卒業検定に合格すると、やはりそれなりの感慨はある。

 学校と違って、毎日のようにどんどん教習生が「卒業」していく指導員には迷惑かもしれないと思ったが、ちょうどお昼休みに皆さん揃ってお弁当を召し上がってるところが窓越しに見えたので、おそるおそるドアをノックしてお礼を言う。「お食事中申し訳ありません」。

 たった1週間の付き合いだし、今後会うこともないだろう。でも、だからこそだろうか、きちんと挨拶しておきたくなったのだ。

 困るのは・・・

 買う予定なんか全然なかったし、置き場所すらないのにバイクが欲しくなってきたことである ^^;