◆予行演習

 息子がいなくなってから2週間以上が経過した。

 といっても、もちろん元気に生きている(はずだ)。自動車免許を取るために、他県で「合宿」しているのである。

 もしかしたら、あいつが生まれて以来、もっとも長い間顔を合わさずに過ごしているかもしれない。

 あ、違う。
 それこそ、飛行機の免許を取るために私がアメリカで「合宿」していた期間の方が長かった。あれは3週間以上だったろうか・・・

 あの時と違うのは、今は夫婦2人で過ごしているということだ。
 息子が生まれて20年、数日以上にわたって夫婦2人だけになったのは間違いなく初めてである。

 2人になって新婚当初に戻ったように感じる・・・などということは金輪際ない(笑)
 夫婦をやったことのある人ならだれでもわかるだろう。

 むしろ、子どもが巣立った後に訪れるであろう「老後」の予行演習みたいな感じがして。幾ばくかの寂寥感を覚える。
 精神年齢30歳なのに。

 意外なのは、息子が家にいなくても、ほとんど何も感じないこと。世にいう「空の巣症候群」などとは無縁だということがわかったのは、収穫というべきか、寂しいというべきか。
 あいつが幼かったころは、2泊3日の出張とかでも、会いたくて会いたくてたまらなくなっていたのだが・・・

 まあ、そこそこ順調に子離れしていると喜ぶべきなのかもしれない。
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 息子の不在をそれほど意識しないのは、生活する上で何の不便も痛痒も感じないことが大きいと思う。実際上役に立っているのは風呂を洗うことぐらいだから、いなくなってもそれほど不都合はないのである。

 もちろん、子どもというのは、存在するだけで何ものにも代えがたいことに変わりはないけれど。