●グレート・ディベーター

 デンゼル・ワシントン、監督・主演作品。
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 いつのころからか、競争が嫌いになった。人生の、ごく早い時期である。

 競争するぐらいなら、負けるか逃げる方を選ぶ。しんどいのは苦手なのだ(笑)

 いや、もちろん、それですべてがうまくいくわけではない(というか、うまくいかないことの方が多い)。
 それに、ふつうに仕事や生活をしていれば、否応なしに競争に巻き込まれることもあるし、勝った負けたもついて回る。
 そういう場合は、「がんばらない」ことにしている。義務的に仕方なく、あるいは気が向いたらやるぐらいにしていると、ほとんどは負ける。たまに勝ってしまったとしても、周囲のお蔭や時の運、自分のせいではない。

 いずれにせよ、ここ二十年以上、競争相手がいてそれに勝ったという記憶はひとつもない。

 ・・・あ、そんなふうに言語化すると、ほんのいくつかぐらいはあるのが思い当たるが、本人は「義務的に仕方なく、あるいは気が向いたら」でやっているので、そもそも勝負しているという意識がない。目に見える競争相手がいるような勝負もほとんどない。
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 だが、そんなことを言っていられるのも、負けることが大した痛みを伴わず、逃げることが拠り所を否定することにならないからだ。

 ある種の人たちには、負けたり逃げたりできない深刻さと切実さがある。そして、それに立ち向かう崇高な闘いと勝利がなければ、私たちの社会が今あるステージへと進んでこられなかったことは私にも理解できる。
 さらに、社会がまだまだ未熟で理不尽なところであるならば(間違いなくそうだ)、次なる闘いと勝利によってしか次のステージへは進めないこともわかる。
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 さて、私の負けは、ほんとうに大した痛みを伴わず、逃げは拠り所を否定していないだろうか。

 こういう闘いになら参加して勝ちたいと思い、苦難の中にある登場人物たちがそれでも幸せに見えるとき、負けと逃げでは心の静穏はやはり得られないのかと考えさせられる。

 そして、かなうならば、違った形の静かな闘いが私にも続けられればと思う。たとえ勝利する望みは持てないにしても。

(The Great Debaters, 2007 U.S.A.)