●手持ち無沙汰な朝

 探鳥地のボランティア清掃に行く予定で早めに起床した。

 暑い。朝っぱらから室温が30℃を超えている。
 あんまり暑いので、服を着るのを一番最後にする。

 出かける用意がすべて整い、最後に携帯電話をリュックに入れようとして、メールが来ていたのを知った。なんと、曇りというよりは晴れといった方がいい天気なのに、大雨警報が出ているという。清掃は中止になった。

 ネットで確認すると、私の住んでいる市にも出ている。仕事に出かける家人にそのことを伝えたが、いずれにしても行かなくてはと出て行った。

 何とも手持ち無沙汰な朝である。

 暑いのだが、今着た服を脱ぐのも面倒だ。さてどうしようと思いながらさっきの続きでパソコンを触っているうちに懸案を一つ二つ片付けると、涼しいところに行きたくなってきた。

 自然な涼しい場所というと、とりあえず六甲山系しか思い浮かばない。外はまあ晴れている。自宅を出てしばらくすると、大雨警報も解除された。
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 山を登りはじめると、34℃を指していた車外温度計がいつものようにどんどんその数値を下げてゆく。
 いや、「いつものように」とはいっても、この前にそれを見たのは昨年のことだ。それをまるで先日のことのように思っている。

 25℃になるあたりから、周囲が霧に包まれはじめた。露点がそのぐらいなのだろうか。
 下界は晴れていたのに、霧というよりは雲といった方がいいような白さである。山上の方に雲がかかっているなあと思っていたのだが、実際、その雲の中にいるのだ。

 いつもの場所に車を駐め、最小限の荷物を持って歩く。霧は相変わらず濃いが、幸い雨は降っていない。葉の上の雨滴がときおり風に飛ばされてくるだけだ。

 すぐに鶯の声。不如帰のさえずり。カラ類の声と、妙な地鳴き。
 地鳴きの主はソウシチョウの(たぶん)つがいだとわかった。この辺に居着いているらしい。もはや驚きはないが、はっきり見たのはもしかすると3年ぶりだろうか。それでも、いつもの場所にいつもの鳥がいると思ってしまう。

Img_9209_32 いつもと違っていたのは、見慣れない半球状の蜘蛛の巣がそこら中にあったこと。どの巣にも主は見あたらず、どんな蜘蛛なのかわからない。

 もう一つは、行き止まりが工事中だったこと。
 もともと、うち捨てられたような狭い広場(clearingってあんな場所のことをいうのかな)だったのだが、草や土砂に埋もれたどこにも行けない階段があったりして、なんだか妙な場所だなと思っていた。少なくとも十数年は放置されていたはずなのに、今ごろ何の工事をしているんだろう。

 その行き止まりから引き返すとき、ハイカーに会った。「こんにちは」と挨拶はしたのだが、向こうへ行ってもどこにも行けない。ただ一つつながっている道は、行き止まりの手前から左へ下る、笹に埋もれた急なハイキングコースだが、ほとんど廃道である。
 大雨の後、濃い霧の中、笹に埋もれた滑りやすいルートを降りていくのだろうか。もしかしたら引き返してくるかもと思ったが、来なかった。
 世の中には不思議な人がいるものである。向こうも同じように思っているかもしれないけれど。

 霧も濃いので、車に戻って引き返す。珍しく、カーナビが現在位置をロストし、道のないところに妙な軌跡がしばらく続いた。霧で電波が届きにくいとか、そんなことがあるのだろうか?

 下界に降りるとさっきまでの霧が幻のように晴れ、気温も36℃になっていた。東の方にはもくもくと積乱雲が立ちのぼっている。

 まもなく本格的な夏になる。梅雨明けも近い。