★実態が表現を産むのだ

 ときどき、左の鬢のあたりから一本だけ白髪が飛び出していることがある。

 気がつくと抜いたりしていたのだが、抜いた累計はせいぜい10本にもならないだろうと思う。右も抜いたことがあるが、こちらは5本にもならないかも。

 だが、今日は左に2本見つけた。一本抜いて(というか途中でちぎれて)2本目に取りかかるために、隠れてしまった白髪を探そうと鬢をかき分けて鏡を見たとき、「うわっ」と思った。

 ざっと20本ぐらいの白髪が見えた。あるいはもっと多いかもしれない。

 「一匹でも見かけると、その30倍はいるんですって」という往年のゴキブリ退治のコマーシャルを思い出した。

 ゴキブリは根絶やしにしたいが、白髪の方はもうすっぱり諦めることにした。妙に飛び出してくるのがあったら、それだけを相手にしよう。
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 「鬢」なんて書いて今どき通じるのかと思って何気なく辞書(大辞林)を引くと、そっけなく「頭の左右側面の髪」と記した語義の後に、たったひとつ載っていた用例が

 「鬢に白いものがまじる」

 なるほど。実態が表現を産むのだ。