■意志の強い男

 いささか旧聞に属するが(情報の「消費」が速いなあ)、オウム真理教の元幹部とされていて、拉致事件の共犯として特別手配されていた平田信容疑者が、丸の内警察署に出頭して逮捕された。

 各社の報道から、この逮捕までに至る道筋を簡単に振り返ると

1.捜査本部のある大崎署(品川区)に出向いたものの、自分のポスターが目に入らず、立ち番の警官がいなくて入り口もわからなかったため断念した。
2.オウム事件関連の情報提供用フリーダイヤルへ「10回程度かけたが、話し中だった」。
3.仕方なく?110番して「平田信の担当はどこですか」と聞いたところ、警視庁だと言われたため、警視庁(千代田区霞が関)に向かい、本部庁舎で出頭しようとしたが、立ち番をしていた機動隊員にいたずらだと即断され、近くの交番か丸の内署に行くように指示された。
4.さらに「特別手配の平田信です」と強調しても相手にされなかった。
5.丸の内署に移動して再度名乗ったが、女性警察官に「うそ」と疑われた。
6.「ほら、ぼく、背が高いでしょ」と説得?しても「本当にそうなの?」と最後まで疑われながら署内に入れてもらい、その後逮捕された。

 ここでは、警視庁前の機動隊員の愚かさは非難しない(愚かでなかったとは思わないが)。

 そうではなくて、平田容疑者の意志というか決意の固さに言及したい。自分が同じ立場だったとして、どこで出頭するのを諦めるかと考えてみたのだ。

 私のようなコンニャクのような意志しか持たない者は、もしかすると1の段階でやめてしまうかもしれない。
 2の段階では、「これは出頭するなという神の啓示だ」とか理屈をつけて、諦める可能性はぐっと高くなる。
 3に至って、目の前で警官に名乗っても捕まらないなら、外で自由に生活できるかもしれないとの希望も湧く。
 4でそれは確信に変わる。

 それでもまだ、わざわざ別の警察署に行こうとする者がいるだろうか。彼は行くのである。

 5で「うそ」と疑われたら、「もうこれはいくら何でも」と考えて、たぶん私なら、「うそでーす。すみません。お巡りさんもよいお年を」とか誤魔化して出頭をやめるだろう。

 それでも相手を説得してまで自首する意志の強さ。
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 後日の報道で、事実上の結婚状態にあったらしい女性の供述によると、引っ越しの時以外、十数年間「一切」外出しなかったということが明らかになった。「ほとんど」の間違いではないかと思ったが、「わたしの知る限り」とはあるものの、明白に「一切」と新聞に書いてある。

 十数年間、狭いアパートから一切出なくても精神の均衡を保てる男。まして、特別手配されている身で。

 これほどの人物だからこそ、射撃の腕前が一流だったり、強い信仰心を持てたりしたのだろうと思った。
 たとえ間違った信仰であったとしても。

 「報道された供述を信じるならば」平田氏は単なる可哀相な信者であり、なんら違法行為に手を染めていないという。

 個人的な「心証」としては、それが事実なのではないかという気がする。

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 もし私に彼ほどの強い意志があれば・・・と夢想してしまう。仮にそうでも、もちろん麻原なんかハナから信じないし。