★坂の街

 サンフランシスコはとても特殊な街だ。もちろん、その地理的条件において。

 今回、20年ぶりに訪れて、改めてその坂道に驚いた。映画やテレビでも何度も目にしているのに、自分をその場に置いてみると、やはり訴えかけてくる力が違う。
 Powell Street からタクシーに乗り、目の前に圧倒的な壁のような坂が立ち上がった瞬間、思わず、うわおと小さくつぶやいてしまった。もちろん運転手にとっては見慣れた日常の風景であり、後席の客がなぜそのタイミングで驚いたのかはわからず、きょとんとしているみたいだった。

 日本にも、坂の街を名乗る都市は存在する。たとえば、長崎・尾道・小諸など。しかしながら、そのスケールと傾斜を総合して考えるならば、サンフランシスコほどの街は日本に一つもないのではないか。いや、おそらくは世界にも。

 海に突き出た山を街にしようなどとはだれも普通は考えない。山が始まったところで街が終わるのが常である。だが、その山全体が街になってしまっているのがサンフランシスコなのだ。しかも、山を上り下りするというのに、道は基本的にあくまで直線。その坂を下りるのは、スキー場のゲレンデで直滑降をしているようなものだし、登るのは・・・そう、文字通りケーブルカーで登山しているようなものなのである。

 よくもまあ、こんなところにこんな街を・・・

 昨日はホテルからNob Hillまで歩いたが、頂上まで「深い茂みを切り拓」いて最初に道をつけ、家を建ててしまったというDr. Arthur Hayneという人には驚嘆せざるを得ない。たった150年ほど前のことらしい。フォロワーたちですら、大したものだと思う。
 (しかし、その当時、ここはだれの土地だったんだろう?)

 今はもうほとんど建物に埋め尽くされてしまった街。20年前に来たときは想像しなかったが、ここが「深い茂み」に覆われたただの山だったころのことを思い描こうとしても、なかなかうまくいかない。