●初めての○急

 今さらあらためていうまでもなく、東京はあらゆる点で特殊な街だ。

 だから、どんな断片を切り取っても、日本の他のどの街とも似ていない・・・というようなことが起こる。

 いつものことではあるのだが、今回もあらためて気になったのは、ほとんど東京へ行かない私のような者でも、東京のかなり多くの地名を知っているということである。
 おそらくは、知っている限りの東京と大阪の地名を挙げていくと、東京の方が数倍多いのではないかという気すらする。大阪に住んでいてさえ、だ。

 だが、知っているのは地名だけ。
 自由が丘といっても下北沢といっても高円寺といっても中野といっても目黒といっても巣鴨といっても・・・それがどんな位置関係にあってそれぞれどんな場所なのかはほとんどわからない。
 渋谷と新宿と池袋がどの順番に現れるのかすら、もう一度思い出さねばならないほどだ。

 地名に限らない。

 小田急も東急も、名前だけは嫌というほど知っている。小田急の殺人ラッシュや開かずの踏切、伊豆へ行くロマンスカーのこと、東急の二子玉川や たまプラーザ のことなど(それにしても、どうしてプラザじゃないんだ?)。
 それでいて、乗ったことはおろか、実物を見たことすらなかったのだ。
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 今回、久しぶりに仕事で東京に出かけ、同業の畏友の職場と寓居(という語は不適切かもしれないがお許しいただけることと思う)をやっと拝見することができた。数年来の宿願が果たせた気分である。
 その行き帰り、東急やら小田急やらを生まれて初めて経験した。
 (その節はありがとうございました。)
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 それにしても、東京はすごい。私が訪れた、世界中のどの都市とも似ていない。明らかに人が多すぎるし、領域が広すぎる。そして、ミクロにもマクロにも、あらゆる人の需要にこたえるための、湧き上がるような蠢きに満ちあふれている。

 大陸中国やインドに行ったことがないので何とも言えないのだが、いわゆる「先進国」の都市としては、間違いなく右に出るものがない蠢きだと思う。ニューヨークやロンドンやパリですら、東京とはくらべるべくもない。

 巨大な財政赤字を抱えていても、歴史上例のない少子化が進んでいても、稀にみる災害の後遺症が続いていても・・・ これだけの生命力が充満しているのならば、もしかしたら何の問題もないんじゃないだろうかと、ふとそんな錯覚を覚えそうになった。