■ジャンプするクルマ

 被害のあまりなさそうな市街地の信号の中にも、まだ点灯していないものが数か所あって驚いた。

 防毒マスクにゴーグルみたいな完全装備の警官が手信号を送っていたりする。確かに、あの砂埃の中、交差点に立ち続けるのは、いくら仕事とはいえ、大変な作業である。

 被害のあったところの中には、通行止めで迂回路が設定されていたりすることも多かった。中には、橋が落ちたところに仮の橋が架けられたりもしていた。

 そんな迂回路のひとつを走っていたときのこと。

 交通量はほとんどない。長い迂回の間中、今思い出す限りでは、先行車(すぐに私を置いて先へ行ってしまった)と対向車がそれぞれ1台だけだったように思う。

 どこまで迂回するのやら・・・ 途中一度道を間違えて山の中の行き止まりになり引き返す。ほんとにこれほどの大回りが必要なのかとちょっと気持ちが焦っていた。
 北上川の河口付近、川に沿って左岸を東西に結ぶ道だ。川のすぐ北の道ではなく、もう一本北を走る田舎道である。
 綺麗な舗装に車のいない道のこととて、たぶん60〜70km/hぐらいで快調に走っていたと思う。

 えっ !? と思ったときには、すでに車は空中にいた。

 昔バイクに乗っていたせいもあり、路面には注意している方である。それに、「段差注意」とかなんとか、この国ではうるさいぐらいにある表示も、何もなかったと思う。さらには、ここに来るまでに、さんざん段差を経験していて、少しは慎重になっているはずだった。

 それでも車は見事に?ジャンプし、ほんの一瞬ではあるが、確かに4輪すべてが地面から離れた感触があった。

 「うわっ、あかん!」と思った瞬間、何もできないうちに車は着地し、直後にトランクに入っていた自転車が床に落ちる音が聞こえた。トランクの中で宙に浮いていたのだろう。

 車はしかし、そのまま何ごともなかったように走り続けた。着地のショックはあるにはあったが、タイヤとサスペンションがうまく吸収してくれ、底を打ったりもしなかったのは幸いだった。
 おそらくは、何もできなかったのがよかったのだろう。

 ジャンプするまでに変な抵抗は一切なかった。地震で?高低差のできた道路の段差を応急工事で埋めていたにちがいない。それがちょうどジャンプ台のようになり、車がスムーズに宙に浮いたのだと思われる。

 テレビゲームじゃあるまいし、自分の運転する車がたとえ一瞬でも完全に宙に浮くなんて、もちろん初めてのことだし、おそらくは今後一生ないだろうと思う(そして、ないことを祈る)。