■秋の彼岸はタカ渡り

 ほんの2〜3年前から、秋の彼岸はタカの渡りの季節になった。

 もちろん、それは「私にとって」である。

 タカ自体は何万年?も前から同じようなルートで南へ渡って行っているのかもしれない。
 だが、私が見に行くタカ渡りルートが「発見」されたのは、わずか30年ほど前のことだというのを伺ったことがある。
 それまでの長い間、この地に住む人々は彼岸に空を見上げなかったのだろうか。

 いや、ヤンバルクイナがそうであるように、太古の昔から人は鳥を認識していたのかもしれない。古人には、私と違って視力のいい人も多かったはずだ。性能のいい双眼鏡はなかったとしても。
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 私自身は、タカが集団を作って南へ渡ることなど数年前までは想像もしなかったのだが、今年も先達の導きを得て大阪平野が見渡せる展望台へ登り、飛行機よりはよほど少ない、飛翔中のタカを探すことになった。
 それこそ、こちらが鵜の目鷹の目で探しても、そう簡単には見つからない。

 それでも、ちょうど複数のグループがたまたま合流して、展望台上にたくさんの人が集まっていた時に、今日いちばんの「タカ柱」ができた。
 上昇気流を捕まえた複数のタカが帆翔しつつ高く昇っていく。それが、空中に聳える柱のように見えるのだ。

 私が確認したのは25羽だった。

 あっちだこっちだ10だ20だと騒ぎながら、空に向かって興奮気味に双眼鏡を向ける異様な?集団が不思議だったのだろう、後ろにいたご婦人が、「皆さん、何を観察なさってるんですか」と聞いてきた。数年前なら、私もまったく同じ質問をしたことだろう。

 説明しながら、ふと、ずっと以前から知っていたことであるかのように感じている自分を、妙な思いとともに自覚した。

 実際のところ、観察するのもまだ数回目だし、タカの渡りに関して何ほどの知識があるわけでもない。
 そんな私でも、まったく何も知らなかったときと比べれば、彼岸の空を見上げる目が違っている。
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 ときおり強くなる涼しい秋風に吹かれながら、まだ無限にある「知らないこと」の一片を知り、世界を違う目で眺められるようになることの素晴らしさを想像してみた。