■「残念」な装い

 ソウルに来て去年も感じたことだが、ある年齢を境にして女性の服装が一変する。およそ55歳以上の女性は、「伝統的な服装の色彩感覚を洋服に応用して失敗してしまいました、残念!」という感じの装いをしていらっしゃることが多い。エレガントでシックな着こなしをした初老の女性はついぞ見かけなかった。
 もちろん、ご本人たちはそれがいいと思ってお召しになっているのだろうから、異国の人間がとやかく言うようなことではない。しかしながら、パンチパーマ?に赤や緑を基調とした派手な柄の洋服、七分丈のズボン(その色が往々にして黄緑やピンク)ということになると、おそらくは同じ国の若い女性たちも大いなる違和感を抱いているのではないかと思う。その証拠に、50歳未満に見える女性でそんな格好をしている人は一人もいないと言っても過言ではない。

 年齢によって服装が違うのは自然なことだ。しかしながら、こんなにはっきりと、ある年齢を境にして装いがまったく違うというのは韓国以外に知らない。中年以下の女性は、日本とまったく同じ格好をしている。少なくとも私には見分けがつかない。
 55歳ぐらいという年齢に何か意味があるのか。あるとすれば、戦前戦中生まれと戦後生まれということかもしれない。ここでいう戦争とは、もちろん朝鮮戦争のことである。
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 もしかすると、私が幼いころ、日本でも、ある年齢以上の女性は和服に割烹着、それ以下の女性は洋装ということがあったかもしれない。そしてその後、全年齢に洋装が取り入れられる過渡期には、同じように和服の感覚を洋服に応用して失敗したような服を着ている人が多かった時代もあったのではないか。ただ、そのことに私が気づいていなかっただけなのだろう。
 そういえば、最近めっきり減ったが、日本で「おばちゃんパーマ」と呼ばれる髪形が以前確かにあった。今、韓国の55歳以上の女性の髪形にそれが多い。
 韓国には、日本よりよほど先進的な面がたくさんある。たとえば、外国人や人権に関する法整備や制度作りもそうだし、ソウルの地下鉄の(たぶん)すべての駅のホームには列車のドアと連動して開くドアが設置され、転落事故が起こらないようになっている。パナソニックソニーはもはや、売り上げや利益においてサムスンの敵ではなくなってしまった。
 ただ、こと年配の女性ファッションに関しては、日本と同じような道筋を韓国が後から歩んでいるということなのだろう。
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 不思議なのは、男性の装いが日本のそれとほとんど変わらないことだ。もちろん、年齢によって異なるが、特定の年齢を境に一変するということもない。これは、服装に無頓着な男性が多いゆえ、かえってひどいことにもならないということなのだろうか。
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 韓国でも日本と同じように、高級とされるファッションは欧米からやってくる。高級なデパートに行くと、見慣れたブランドショップがひしめきあい、高級ファッションのあるべき姿を示している。そういうものを買え(わ)ない人も、そこをメルクマールとするよう、洗礼を受けている。
 そんなことをものともせず、独自のおばちゃんファッションを貫く韓国の年配女性はたくましい。もしかすると、欧米流の着こなしの模倣に汲々としている若くて綺麗な女性たちよりも、独自の誇り高い装いを貫いているといってもいいかもしれない。
 残念ながら、私の目はもちろん前者に向かう。ミニスカートから出た長い脚を真っ直ぐにのばし、高いヒールで颯爽と歩いて行く女性たちだ。日本人よりも歩き方が綺麗に見えるのは、単なる錯覚ではないと思う。「少女時代」(というグループを滞在中に初めて知りました)のような女の子をけっこう見かけるのだ。

 いや、実際には、ぼーっと看板なんかを見ているふりをしながら、「残念な」おばちゃんたちのファッションをなかば感動しつつ眺めていた時間の方が圧倒的に多いとは思う。

 綺麗な若い女性なんかを見ていると、人から何と思われるかわからない。

 (以上はソウルの金浦空港へ向かう地下鉄の中で書いたものです。)